第一にきわめて重要な問題は,急性期の後もイベントが続発しているかどうかということです。GRACE registry1)をはじめとした複数の研究において,二次予防を行ったにもかかわらず退院後にイベント発症が続発することが報告されました。実際に5年間のサマリーデータを調べてみると,心血管死の50%は退院後のST上昇型心筋梗塞発症によるものです。これは長期のイベント発症予防が十分でなかったことを明白に示しています。一つの仮説として,プラーク破綻にともなってトロンビンが介在する血栓塞栓イベントが発生するという機序が考えられます。抗凝固療法追加の意義はこの点にあると考えられます。

Keith A. A. Fox氏
本試験では抗血小板療法への抗凝固療法の追加が検討されましたが,過去に行われた第II相試験にもとづき,非常に低い用量(2.5mg,5mg各1日2回投与)が用いられました。興味深く,もっとも印象的な結果は2.5mgの方から得られました。安全性と有効性のバランスが維持できる,まさに絶妙な用量だったのです。これから持ち上がってくる問題は,これを既存の治療にどのように適応させたらよいかということです。
APPRAISE-22)で用いられた抗凝固薬の用量は心房細動患者に対してのものと同じで,抗凝固薬追加のベネフィットは得られませんでした。それは何故か?出血リスクがあったからです。いったん出血が起こると,有害転帰を導くような不意の合併症が生じるか,さもなければ抗血小板療法,抗凝固療法が中止され,結果として心筋梗塞リスクが上昇します。急性冠症候群(ACS)に抗凝固療法が有用であるという仮説は妥当と考えられます。問題は用量です。おそらく,以前用いられていた用量は高すぎたのでしょう。ですから,抗血小板薬,抗凝固薬を併用する際は,それぞれについて出血リスクを上昇させずにベネフィットが得られる正しい用量を同定する必要があります。本試験の結果によると,2剤抗血小板療法(DAPT)に追加するリバロキサバンの正しい用量はきわめて低いと考えられます。
非常に興味深かったのは,1年後以降からプラセボ群とリバロキサバン群のイベント発症率の差がさらに開いたことでした。リバロキサバンとアスピリンの併用療法は1年後以降も有効性が持続すると思われます。これは医師にとって有用な戦略となるでしょう。この戦略を使えるかどうかは,ACSの状態によって決まります。
リバロキサバンの有効性はどのサブグループでも非常に一貫しており,殊にベネフィットが大きかったサブグループはありませんでした。高リスクのサブグループはありました。脳卒中既往患者です。脳卒中既往患者では出血リスクが上昇するため,DAPT+抗凝固療法の併用には注意する必要があるでしょう。しかし,周知の通りROCKET-AF試験3)ではリバロキサバン単独で効果がみられています。同試験の55%は脳卒中または一過性脳虚血発作の既往患者でした。
非常に難しく,まだ解明されていない重要な問題です。ACSイベント発症後しばらくの間は,ACSとステントの種類を考慮してDAPTおよびリバロキサバン2.5mgを用いるべきと考えます。その後は,臨床医はリバロキサバン2.5mgを継続するべきか,それとも高用量に変更すべきか判断する必要があります。心房細動(AF)についてはダビガトランやアピキサバンなど他の選択肢もありますが,ACSについては両剤を支持するエビデンスはありません。
HAS-BLEDなどの出血リスクスコアを治療のガイドとして使用するとよいでしょう。問題は,加齢,糖尿病,高血圧,心不全といった血栓症リスク因子の多くが出血リスク因子でもあるということです。バランスをとるのは非常に難しいことです。患者がもっとも快適に服用できる薬剤を選択するためには,臨床医は自らの判断とHAS-BLEDスコアなどの出血リスクを組み合わせて考慮するほか,患者と膝を交え,ベネフィットとリスクについて話し合う必要があります。どの薬剤を使用するか,最終決定するのは患者です。患者とともにこのプロセスを踏むには時間がかかります。しかし長い目でみれば,はじめからそのように,つまり,患者を教育し,そしてどの治療法にするか一緒に決めるとよいのです。これは実行可能なことです。
重要なことは,ACS発症後の抗凝固療法が全死亡,心血管死などの長期アウトカムを低減するというエビデンスが初めて得られたことです。本試験により,ACS二次予防の新たな扉が開かれました。
1) GRACE registry: Am J Cardiol 2002; 90: 1056-61.
2) APPRAISE-2: N Engl J Med 2011; 365: 699-708.
3) ROCKET-AF: N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
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