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[学会情報]米国心臓協会学術集会(AHA)2008
2008年11月8日~12日 in ニューオリンズ
編集部が選ぶ注目トライアル
Late-Breaking Clinical Trials
<Late-Breaking Clinical Trials I>
JPAD The Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis with Aspirin for diabetes
日本人の2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究

Hisao Ogawa, MD, Ph.D
Hisao Ogawa, MD, Ph.D
(Kumamoto University, Kumamoto, Japan)

【11月9日・ニューオリンズ】
試験背景/目的 米国糖尿病協会(The American Diabetes Association,ADA),AHAをはじめとする多くのガイドラインで,糖尿病患者での一次予防を目的としてアスピリン投与が推奨されているが,その根拠となるデータは十分にそろっているとはいえない。とくに日本においては,これまでほとんど検討がなされていない状況である。また,アスピリンには出血リスクの問題もあり,投与の是非については,議論がわかれるところである。
 そこで,心血管イベント既往のない2型糖尿病の日本人患者を対象に,アスピリンによる動脈硬化性疾患予防効果を検討するために,JPAD試験が企画された。この試験は,アスピリン投与とアスピリン非投与を,PROBE(blinded-endpoint assessment)法で比較した前向きランダム化比較試験である。この結果が11月9日のLate-Breaking Clinical Trials Iにおいて,小川久雄氏(熊本大学)によって発表された。

一次エンドポイントは動脈硬化性イベント(突然死+冠動脈・脳血管・大動脈が原因の死亡+非致死性急性心筋梗塞+不安定狭心症+労作性狭心症の新規発症+非致死性虚血性/出血性脳卒中+一過性脳虚血発作+非致死性大動脈血管疾患+非致死性末梢血管疾患)。 二次エンドポイントは一次エンドポイントの各構成要素,およびその組み合わせ,全死亡。

試験プロトコール JPAD試験は2002年12月~2005年5月に実施され,2008年4月に追跡が終了した。参加施設は163施設にのぼる。対象は30~85歳の2型糖尿病患者で,冠動脈疾患,脳血管疾患,他の動脈硬化性疾患,心房細動,重篤な胃・十二指腸潰瘍の既往,抗血小板薬/抗凝固薬服用例は除外された。
最終的にアスピリン群(低用量アスピリン[81~100mg/日]投与)に1,262例,アスピリン非投与群に1,277例が割付けられ,平均4.4年間の追跡がなされた。

試験結果 一次エンドポイント発生率はアスピリン投与により低下したものの,統計的有意差には至らなかった(ハザード比[HR]0.80,95%CI 0.58~1.10,P=0.16)。
二次エンドポイントの一つである致死性冠動脈イベント+致死性脳血管イベントに関しては,アスピリン群で有意にイベント発生が減少した(HR 0.10,95%CI 0.01~0.79,P=0.0037)。
一次エンドポイントに多くの項目が含まれていることについて,発表者の小川氏は記者会見の席で「日本人では心血管イベント発生率が低いため」と説明している。実際に,致死性冠動脈疾患イベント+致死性脳血管イベント以外の二次エンドポイントに関しては,いずれもイベント発生率がきわめて低く,群間に有意差はみられていない。

JPADではさらに年齢,性別,高血圧の有無,脂質代謝異常の有無,喫煙に関してサブグループ解析を実施している。その結果,65歳以上(アスピリン群719例,非アスピリン群644例)では,アスピリンによる一次エンドポイントの有意な低下が認められた(HR 0.68,95%CI 0.46~0.99,P=0.047)。

なお,アスピリンの投与でもっとも懸念されている重篤な出血イベント(出血性脳卒中:アスピリン群6例,非アスピリン群7例,重篤な消化管出血:4例,0例)に関して,両群間に差はなく,アスピリンは忍容性にも優れていた。小川氏は「出血性脳卒中のリスクが高いと考えられている日本人を対象にしたJPAD試験において,アスピリンによる出血性脳卒中の増加はみられなかった」と述べたうえで,「糖尿病患者の一次予防を目的としたアスピリン投与が安全であることが支持された」と結論づけた。

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