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[学会情報]欧州心臓学会学術集会(ESC)2009
(2009年8月29日~9月2日 in バルセロナ)
編集部が選ぶ注目トライアル
Hot Line I
RE-LY Randomized evaluation of long-term anticoagulant therapy: Dabigatran compared to warfarin in 18,113 patients with atrial fibrillation at risk of stroke
脳卒中高リスク心房細動患者におけるダビガトランとワルファリンの比較
Comment: Jonathan L. Halperin, M.D.   RE-LYの結果はまさにパラダイムシフト
  Eric Prystowsky, M.D.   ついにワルファリンに代わる治療が見つかった

Dr Stuart J. Connolly
Stuart J. Connolly MD.
(McMaster University,カナダ)

【8月30日・バルセロナ】
試験背景/目的 心房細動患者の脳卒中予防において,ワルファリンの有効性に対する評価は高く,欧米,日本のガイドラインでもその使用が推奨されている。一方で,ワルファリンは出血性の副作用や,コントロールの煩雑さなどから,実際に投与されている患者はワルファリンを必要とする患者の約半数にすぎないとされている。これまでにいくつかの薬剤がワルファリンの代替薬として検討されてきたが,ワルファリンと同等あるいはそれ以上の有効性を持ち,安全性やコントロールの面でワルファリンを凌ぐ薬剤は得られていない。

そこで,脳卒中高リスク心房細動患者を対象に,新規トロンビン阻害薬,ダビガトラン(dabigatran etexilate)*の脳卒中予防効果をワルファリンと比較するRE-LY試験(第III相)が企画された。
本試験はダビガトランの2種類の用量の,ワルファリンに対する非劣性を検証するランダム化比較試験である。

8月30日のHot Line Iにおいて,Stuart Connolly氏(McMaster University)がこの試験の結果を発表した。また,同日,New England Journal of Medicine誌の電子版に論文が掲載された。

一次エンドポイントは脳卒中+全身性塞栓症。安全性の一次エンドポイントは大出血である。

試験プロトコール RE-LY試験は2005年12月–2009年3月に実施され,日本を含む44ヵ国,951施設が参加。対象は危険因子を一つ以上有する心房細動患者18,113例。ワルファリン群(INR 2.0–3.0にコントロール),ダビガトラン110mg群(dabigatran etexilate *110mgを1日2回投与),ダビガトラン150mg群(dabigatran etexilate 150mgを1日2回投与)に割り付けられ,2.0年間(中央値)追跡された。ワルファリンはオープンラベルにて投与されたが,ダビガトランの投与には盲検法が用いられた。アウトカムの判定は盲検化して行われた。
*dabigatran etexilateはダビガトランのプロドラッグ。服用後,速やかにダビガトランに変換される。本邦未承認。

試験結果 患者背景は平均年齢71–72歳,平均CHADS2スコアは2,ベースライン時のアスピリン服用患者の割合は約40%,ワルファリン未投与患者の割合は約50%。

一次エンドポイントの年間発生率は,ダビガトラン150mg群1.1%,110mg群 1.5%,ワルファリン群1.7%となり,ダビガトランの高用量,低用量ともに,ワルファリンに対する非劣性が証明された(いずれもP <0.001)。さらに優越性の解析では,150mg群でワルファリン群に比し有意に一次エンドポイント発生率が低いことが示された(リスク比[RR] 0.66,95%信頼区間[CI] 0.53~0.82,P <0.001)。一方,110mg群とワルファリン群では,有意な差はみられなかった。

出血性脳卒中については,ダビガトラン150mg群でRRが0.26(95%CI 0.14~0.49,P <0.001),110mg群でRRが0.31(95%CI 0.17~0.56,P <0.001)となり,両用量ともワルファリン群に比して有意な減少が認められた。虚血性脳卒中に関しては,ダビガトラン150mg群のみワルファリン群よりも有意な減少が認められた(RR 0.76,95%CI 0.60~0.98,P =0.03)。

生命を脅かす大出血の年間発生率は,ダビガトラン150mg群1.5%,110mg群 1.2%,ワルファリン群1.8%となり,ダビガトランの高用量,低用量ともに,ワルファリンに比し,有意に少なかったが,消化管の大出血については,ダビガトラン150mg群でワルファリン群よりも有意に多く発生した(RR 1.50,95%CI 1.19~1.89,P <0.001)。

有害事象については,消化不良の発生がダビガトラン両群でワルファリン群より有意に多かった以外,ワルファリン群との間に違いはみられず,肝毒性もみられなかった。

ダビガトラン150mg群と110mg群の比較では,150mg群が脳卒中+全身性塞栓症予防効果は優るものの,大出血の発生率も高かった。リスクとベネフィットを総合的に判断すると,両者の臨床的有用性(血管イベント,死亡,出血を考慮)に差はなくなった(RR 0.98,95%CI 0.89~1.08,P =0.66)。この結果について,Connolly氏は「個々の患者の出血リスクなどを考慮したテイラーメイド治療(用量設定)の可能性もある」と結んだ。

コメンテーターのJohn Camm氏(ロンドン,イギリス)は,「ダビガトランは優れた治療薬というだけでなく,心房細動患者に対する抗凝固療法において,パラダイムシフトをもたらすもの」と賞賛。さらに「どのような患者にどちらの用量を選択すべきか」など解決すべき課題をいくつか提示し,すでに実際の臨床への応用を見据えていることを窺わせた。

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