心房細動アブレーションのリアルワールド —治療困難例から合併症管理まで— |
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Feifan Ouyang氏(Asklepios Klinik St.Georg, Hamburg, Germany)によるKeynote Lectureに続き,5名のシンポジストが講演。心房細動アブレーション後の心房頻拍への取り組みなどを紹介。まさに“リアルワールド”が凝縮された発表となった。
●持続性心房細動アブレーション後の再発性心房頻拍に対するアブレーション
高橋 良英氏(横須賀共済病院循環器センター内科)
心房細動(AF)アブレーション後に好発する心房頻拍(AT)とそのアブレーションによる予後を臨床的に検討した結果を報告した。
AFアブレーション後,約30%でATを再発したが,3Dマッピングシステム(CARTO®):ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)によりほとんどのATについてメカニズムが同定され,それらはマクロリエントリー,局在起源頻拍,局在リエントリーであることがわかった。最終的に86%の症例で,アブレーション後の洞調律維持が可能であった。
●慢性心房細動に対する同側拡大肺静脈付加心房基質修飾アブレーションの予後と術後心房頻拍の治療
鵜野 起久也氏(土浦協同病院循環器センター内科)
慢性心房細動(CAF)に対する,CARTO®)を用いた同側拡大肺静脈付加心房基質修飾アブレーション(EEPVI-LASA)の症例データを紹介した。
アブレーションを施行した203例のうち,45例で心房頻拍(AT)が再発したため,セカンドセッションが行われた。9例ではサードセッションまで行われた。中隔に基質が残っている場合にATが再発し,これをつぶしていくのがセカンド,サードセッションの特徴。心腔内直流除細動閾値(ADFT)が<20の症例は,≧20以上の症例と比べ有意にAT再発が抑制された。
心房基質への積極的な修飾アブレーションに対し,フロアからは「リエントリーが次々と移動するのはフラグメンテーションし過ぎたせいではないのか。もっとシンプルに施行すべきではないか」といった慎重な意見もみられた。
●EnSiteを用いた心房細動アブレーションの難治例の同定と対策および合併症への対策
土谷 健氏(熊本中央病院循環器科)
どのような心房細動(AF)症例において,単独の拡大肺静脈隔離(CPVI)が有効であるか,どのように合併症を予防するかについて,自身のデータをもとに解析し,結果を報告した。
3Dマッピングシステム(エンサイトシステム®):セント・ジュード・メディカル株式会社)にて電位を測定。左房に低電位領域(LVZ)がない症例では,CPVIのみで多くの症例がAF停止可能であったが,LVZがある場合は左房全体に電気的ダメージを受けるため,CPVIに加え左房本体の通電が必要であることが示された。土谷氏は「エンサイトシステムを用いることで,二次性心房頻拍への対処が容易かつ有効にできた」とし,実用性を強調した。
●心房細動アブレーション後の再発に関するリアルワールド—カルジオフォンを用いた検討—
高月 誠司氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)
心房細動(AF)アブレーション後の再発について,携帯型心電図(カルジオホン®):日本光電工業株式会社)を用いて診断したデータを報告した。
カルジオホンは患者の手指より30秒/回データを記録し,そのデータはPHSによりサーバーに送られる。AFアブレーション後,2回/日データを記録し,6ヵ月間追跡。AF再発の場合には,抗不整脈薬を投与し,3ヵ月以上持続する場合にはセカンドセッションを施行した。
発作性AFよりも持続性AFでアブレーション後の再発が多くみられたが,その半分以上が一過性であり,自然治癒した。再発は左房容積が大きく,AF罹病期間が長い例で多くみられた。このことから,高月氏は「AFの再発には心房リモデリングなどが関連している可能性がある」と考察。
フロアからは,「携帯型心電図はコンプライアンスが良いと思われるが,1回に30秒しかデータが記録できず,夜間の記録もできないので,ホルター心電図と組み合わせるべき」との意見もあがった。
●心房細動カテーテル・アブレーションにおける横隔膜麻痺と食道潰瘍の予防
佐竹 修太郎氏(葉山ハートセンター不整脈センター)
広範囲に焼灼する心房細動(AF)アブレーションの予後は良好だが,横隔膜神経麻痺や食道潰瘍など,さまざまな合併症を引き起こす。高周波ホットバルーンを用いたAFアブレーションにより,これらの合併症を回避できるかを検討し,その結果を報告した。
食道温度が急激に上昇した際はバルーン温度を下げ,また後期には食道内への冷却水の注入をくり返した。薬剤抵抗性AF患者278例にホットバルーンによるアブレーションを施行し,全例で成功。冷却水を注入しなかった例では食道温度が43℃を超え,食道潰瘍が発現したが,39℃に冷却した例では食道潰瘍はみられなかった。また,横隔膜ペーシングにより,右横隔膜神経伝導能低下を瞬時にとらえることで,横隔膜神経麻痺を回避できることを示した。
各講演終了後に,フロアと演者間で活発な意見の交換が行われ,予定時刻を過ぎてもその議論は続き,最終的には時間の関係で打ち切られるほどであった。座長の熊谷氏は「このシンポジウムにより心房細動アブレーションの問題点が明らかになり,それをいかに克服していくかが今後の課題である」と締めくくった。