多くの人がACCORD試験の結果をネガティブだと解釈していますが,私はそれが正しい評価だとは思いません。ガイドラインとエビデンスに基づく標準的な治療は,有益であり,良好なアウトカムにつながることが示されています。
ACCORD Blood Pressure Trialでのイベント発生率は,予想の約半分と,非常に印象的な結果でした。また,血圧を119 mmHgまで降圧すると,脳卒中の発生率は有意に低下しました。この結果は,心血管イベントは抑制可能であり,そのための血圧コントロールの重要性を強調するものです。
<→ACCORD Blood Pressure trial: 2型糖尿病患者における厳格降圧療法の心血管イベント予防効果>
ACCORD Lipid Trialでは,スタチンを用いた標準的な治療は心血管イベントを抑制しました。今のところ,スタチン単剤よりも心血管イベント抑制効果の高い治療法のエビデンスはありません。ですから,糖尿病患者における最適のアプローチは,まずスタチン単剤を投与し,効果が十分でなければフィノフィブレートを追加することです。
一律の治療を目指す,いわゆる「ステートメント」は,必ずしも最善の治療法を示すとはかぎりません。われわれは,「ステートメント」による治療ではなく,“ひとりひとりの患者に合った治療”を行わなければならないのです。
<→ACCORD Lipid trial: 2型糖尿病患者における脂質治療の心血管イベント予防効果>
NAVIGATOR試験では,糖尿病の新規発症を11%抑制するなど,ARBの追加により自然歴が変わることが示されました。これは非常に興味深く,重要な知見です。これまで,HOPE試験などの結果から,レニン-アンジオテンシン系を阻害することにより,高リスク患者における糖尿病の新規発症が抑制されることが示唆されていましたが,今回のNAVIGATORの結果により,それが立証されました。
また,心血管イベントなどのエンドポイントの改善を治療目的とするよりも,糖尿病の自然歴自体を変えたほうがよいことも示されました。脂質改善薬が有用であるかを見分けるのは困難ですが,UKPDS試験や今回のNAVIGATOR試験では,心血管イベントのエンドポイントを治療標的とした場合に,もっとも良い結果が得られています。また,LIFE試験ではARBにより脳卒中が抑制されました。
このように,高リスク患者の治療においては,エビデンスに基づいた血糖コントロール,血圧コントロールによる心血管イベントの抑制,脂質異常に対するスタチン投与が重要であり,こうした治療アプローチにより糖尿病の自然歴が変わってくるのです。
糖尿病や循環器疾患は,複雑で,マネージメントが難しいため,発症予防がとくに重要で,そのためには一般市民への呼びかけが必要です。怖がらせるのではなく,教育し,ポジティブなアプローチを行うべきです。米国心臓協会(AHA)は最近,“Seven Simple Steps to Live Better”(http://mylifecheck.heart.org/)プログラムを立ち上げました。これはオンラインのプログラムであり,疫学データに基づいたアルゴリズムが組み込まれているので,患者は状況に応じたフィードバックを受け,改善のためにはどのようなステップをたどるべきかを知ることができます。末梢器官の合併症を防ぐためにも,一般市民と患者の教育が重要なのです。
<→NAVIGATOR: 耐糖能異常例におけるナテグリニドとバルサルタンのアウトカムへの効果>