ROCKET AF試験では,心房細動(AF)患者に対するワルファリン治療の問題点を解決すべく開発された,新規治療薬リバロキサバンについての検討が行われました。より適切な抗凝固療法を必要とするAF患者の多くは,高齢であったり,心不全を有していたり,脳卒中の既往や腎機能に異常をもつなどの合併症をもつ人たちです。これらの患者のCHADS2スコアは総じて高く,高い脳卒中リスク,そして高い出血リスクを有しています。ワルファリンによりINR治療域を維持することはただでさえ難しいわけですが,このような高リスクの患者ではさらに困難を極めます。合併症により変更せざるを得ない治療や病態の変化が,INRに影響を与えうるからです。このような患者とその主治医にとって,ワルファリンを安全に用いることは非常に難しい課題でした。ROCKET AF試験は,このように,ワルファリン治療に苦慮するような患者を対象としたという点で,大きな意義をもつ試験です。
ROCKET AF試験で検討したリバロキサバンは,固定用量にて一貫した血中濃度が維持され,特別なモニタリングを要さない世界初の第Xa因子直接阻害薬です。本試験の結果より,リバロキサバンの有効性と安全性は,ワルファリンに劣らないことが示されました。これまでワルファリンが定期的なINRモニタリングを要し,その治療域維持に多くの労力をつぎ込んできたこと,そして治療域を維持できない場合のリスクを抱えてきたことを考えると,リバロキサバンがワルファリンに劣らず有用であったという今回の結果は,たいへん重要な意味をもちます。
つい最近,米国と欧州では,ワルファリンに替わる新薬としてダビガトランが認可承認を受けました。しかし,ダビガトランの使用に際しては,腎機能に対する影響に注意する必要があります。リバロキサバンのような第Xa因子直接阻害薬が腎機能に影響を与えないという利点をもつのかどうかは,現時点でははっきりしていません。
米国ではすでに,実際の治療現場においてワルファリンからダビガトランへの切り替えがはじまっています。今後リバロキサバンが認可承認を得た場合,われわれはさらに別の選択をすべきかどうかについては,もう少し情報を待ちたいと思います。
ワルファリンをダビガトランに切り替えるべきか,あるいは将来的にリバロキサバンに切り替えるべきかについては,患者とよく話し合い,個々の患者にとって何が最良なのか,そして何を優先すべきなのかを主治医がくみ取った上で決めることになると思います。実際に私はすでに,ダビガトランへの切り替えについて患者と話し合いを行い,何人かの患者に切り替えを行いました。INRモニタリングから解放されることを喜ばしく思う患者もいる一方で,現在のワルファリン治療に満足しこれを継続することを望む患者もいます。また,ダビガトランの薬価は高額です。おそらくリバロキサバンもそうなるでしょう。このコストも,患者の意思決定の際に重要な要因になると思います。
これまでのワルファリンに加え,ダビガトランあるいはリバロキサバンという新たな選択肢が得られることになるのは,歓迎すべきことだと思います。今後は,個々の患者に対し,ダビガトランとリバロキサバンのどちらが有用なのかを判断するための情報が必要でしょうし,いずれは,両薬を直接比較する臨床試験も必要になるでしょう。
<→ROCKET AF: 非弁膜症性心房細動患者において,経口第Xa因子直接阻害薬リバロキサバンの脳卒中予防効果をワルファリンと比較する>