ASSERT試験では,ApoA-I合成を促進させることでHDLを増加させるという新しいアプローチについての検討が行われました。今回用いられたRVX-208は,ApoA-I(あるいはHDL)を除くリポ蛋白にはいかなる影響も与えません。HDLを増加させるその他の薬剤には,他のリポ蛋白に対する影響も併せもっていました。ApoA-Iのみに厳密に作用する薬剤はたいへん珍しく,その効果には非常に興味があります。また,ApoA-I合成を促進することでHDL-Cを増加させるという機序もユニークです。これまでApoA-I合成を促進させるいくつかの試みがなされてきましたが,それに成功したのは今回のRVX-208が初めてです。一つだけ,ナイアシンのApoA-I合成促進作用を示した小規模の臨床試験がありますが,その他の臨床試験では確認できていないため,ナイアシンが本当にApoA-I合成を促進させるのか否かについてはまだ結論が得られていません。
ASSERT試験は,RVS-208投与の時間経過と用量応答性を検討した比較的規模の大きな臨床試験です。この試験では,RVS-208によるApoA-IとHDLのわずかな増加と,large HDLの増加が認められました。これはたいへん良いニュースです。一方,悪いニュースは安全性に懸念される点が示されたことです。今回の肝毒性のデータをみると,今後は投与用量を制限しなければならない可能性があるでしょう。ヒトを除く霊長類を対象とした研究では,ASSERT試験の20倍もの用量を投与することによって,めざましい有用性が示されていますから,肝毒性によって用量が制限されるのは気になるところです。
試験終了近くになってALTおよびAST上昇が得られたのは興味深いことです。細胞の核内に作用する薬剤は,その効果発現までに長い時間がかかることがあります。その一例として,PPARα(フィブラート系薬剤)およびPPARγ(チアゾリジン系薬剤)作動薬の最大効果は,6〜9ヵ月後まではみられません。ASSERT試験の追跡期間は約3ヵ月間であり,RVX-208の効果は試験終了近くになって増大し始めていました。しかし,毒性についてはこのタイミングでの増加はみられていません。この現象について考察を加えるには,長期間での検討が必要です。
しかしこのクラスの薬剤には可能性があります。今後慎重な検討を続けていく必要がありますが,個人的には,前向きな見方をしています。多くの研究者がこの薬剤,このクラスの薬剤,この領域の研究に取り組み,新しく扉が開くことを期待しています。そのためにも,世界の研究者にApoA-I合成について注目してほしいですね。
一方,DEFINE試験の結果で示されたように,コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬[参考]は非常に期待できる薬剤です。これまでのCETP阻害薬にみられた安全性の問題はanacetrapibでは認められず,HDL-C上昇,LDL-C低下などの結果はASSERT試験のRVX-208よりもはるかに優れていました。
しかし,実際にイベント抑制効果に優れるのはどちらの作用機序をもつ薬剤なのかについては,さらなる検討が必要でしょう。HDL合成系は非常に複雑で,多数の亜種があり,そして代謝経路は無情なほど複雑です。HDLがアテローム硬化症を抑制することにおいても,非常に多くの機序が存在します。われわれは今のところ,どのメカニズムが相対的に重要なのかということすらわからないのです。しかし2020年ごろまでには,多くのことが明らかにされると思います。
私は,ApoA-1のみに作用し,その他には一切干渉しないという今回のRVS-208のコンセプトには大きな期待を寄せています。ApoA-Iは元来,生体内でアテローム硬化症から生体を守るという重要な役割を果たしてきました。もしわれわれが,人為的にApoA-Iをコントロールできるのであれば,非常に有用なアプローチとなるでしょう。
[参考]HDLからコレステロールエステルを引き抜き,LDLやVLDLに転送する作用をもつCETPを阻害する。この結果,HDL-Cが増加すると同時にLDL-Cが減少するものと期待されている。
<→ASSERT: アポリポ蛋白(Apo)A-1合成促進薬に関する初の大規模臨床試験結果>