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[学会情報]日本循環器学会2010
(2010年3月5日 京都にて)
Late-Breaking Clinical Trials 1
PATROL Trial 結果概要
<Late-Breaking Clinical Trials 01>
PATROL Randomized Head-to-Head Comparison of Pitavastatin, Atorvastatin, and Rosuvastatin for the Safety and Efficacy (Quantity and Quality of LDL)
ピタバスタチン,アトルバスタチン,ロスバスタチンの安全性および有効性の直接比較

試験背景/目的 ピタバスタチン,アトルバスタチン,ロスバスタチンは,いずれもストロングスタチンと呼ばれ,強力なLDL-C低下作用を有することが知られている。しかし,同等の効果を得るために必要な用量はそれぞれ異なるため,副作用の発現頻度も異なるとされてきた。これら3剤の安全性および有効性を直接比較した試験はこれまでになく,臨床現場でどのストロングスタチンを使うべきかという問いに対する答えは出ていなかった。

そこで,高LDL-C血症患者を対象とした無作為割付並行群間比較試験により,ピタバスタチン,アトルバスタチン,ロスバスタチンによる16週間治療を行った場合の安全性と有効性を比較した。

主要評価項目は,投薬後16週間の副作用の発現率,およびLDL-Cの低下率。

この結果は,3月5日,Late-Breaking Clinical Trials 01にて福岡大学の朔啓二郎氏によって発表された。

試験プロトコール 参加施設は九州の51施設。試験期間は2007年2月1日~2009年4月31日。

登録基準はLDL-Cが140mg/dL以上,または日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版に掲げられている脂質管理目標値* を達成していない患者。

すでに高脂血症治療薬を服用していた患者に対して4週間以上のウォッシュアウト期間を設けた後,101例をアトルバスタチン群(10mg/日),100例をロスバスタチン群(2.5mg/日),101例をピタバスタチン群(2mg/日)に無作為に割り付けて16週間の治療を行った。

なお,試験薬投与開始4週後にLDL-Cが脂質管理目標値* に到達していた例では初期用量を16週間継続したが,到達していなかった例では,8~16週後の各薬剤の投与量を初期用量の2倍とした。

追跡は4ヵ月後まで1ヵ月ごとに行った。

* 動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版では,LDL-C以外の主要冠危険因子の数によって患者を6つのカテゴリー(A,B1,B2,B3,B4,C)に分類し,それぞれについて総コレステロール,LDL-C,HDL-C,トリグリセリドの管理目標値を掲げている。

試験結果 おもな患者背景は以下の通り:年齢(アトルバスタチン群61.4歳,ロスバスタチン群61.7歳,ピタバスタチン群63.3歳),男性の比率(34.3%, 35.0%, 34.3%),いずれかのスタチンの前投与歴(17.2%, 16.0%, 17.2%),高血圧(64.6%, 58.0%, 61.6%),糖尿病(32.3%, 27.0%, 21.2%),喫煙(14.1%, 12.0%, 12.1%),冠動脈疾患既往(8.1%, 9.0%, 14.1%),脳疾患(6.1%, 8.0%, 3.0%),動脈疾患(1.0%, 1.0%, 3.0%)。

安全性の主要評価項目である16週間の有害事象発現率は,アトルバスタチン群51.5%,ロスバスタチン群46.0%,ピタバスタチン群52.5%で,有意な群間差は認められなかった(P=0.61)。重篤な有害事象の発現率はアトルバスタチン群で有意に高くなっていた(P=0.048)が,いずれも試験薬との関連はないとされた。

16週間の臨床検査値異常の割合をみると,AST,クレアチニン,クレアチンキナーゼ,γ-GTPについては3群で同等だったが,ALT異常の割合は,アトルバスタチン群(24.7%)でロスバスタチン群(13.4%)およびピタバスタチン群(12.6%)よりも有意に高かった(P=0.04)。

16週間の臨床検査値の変動をみると,アトルバスタチン群とロスバスタチン群においてHbA1cの正常範囲内の有意な増加(両群ともP=0.01),および尿酸値の有意な低下(両群ともP=0.0001)が認められた。また,クレアチンキナーゼはアトルバスタチン群で有意な増加(P<0.05),推定糸球体ろ過量(eGFR)はロスバスタチン群で有意な増加(P<0.05)を示していた。

一方,LDL-Cに対する有効性について,管理目標値の達成率はアトルバスタチン群94%,ロスバスタチン群89%,ピタバスタチン群94%といずれの群でも高かった。

有効性の主要評価項目である16週後のLDL-Cの変化率については,3群とも−40~−42%と有意な低下を示しており(P<0.001),群間差はみられなかった。

さらに,3つの薬剤のLDL-Cに対する効果について非劣性検定を行ったところ,ピタバスタチンのロスバスタチンに対する非劣性,ロスバスタチンのアトルバスタチンに対する非劣性,ピタバスタチンのアトルバスタチンに対する非劣性がそれぞれ証明された。

HDL-Cについては,ロスバスタチン群で有意な上昇(約5%,P<0.01)が認められたが,アトルバスタチン群,ピタバスタチン群では変化はみられなかった。

トリグリセリド,およびHDL-C/LDL-C比については,3群とも有意な低下が認められた(P<0.01)。

さらに,有効性の副次的評価項目としてLDL-Cの量と質についての解析も実施された。LDL-C分画中のアポリポ蛋白B,およびsmall dense LDL-Cの変化については,3群ともに有意な低下が認められ(P<0.001),有意な群間差はみられなかった。

朔氏らが独自に開発した方法により,LDLのサブフラクションであるslow-migrating LDL,およびfast-migrating LDLの変化をみると,すべての群で有意な低下が認められ(P<0.001),有意な群間差はみられなかった。

PATROL試験の結果から,日本で使用可能な3種類のストロングスタチン(アトルバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチン)の安全性,およびLDL-Cに対する有効性は同等であることが示され,朔氏は「3種類のスタチンは,患者背景・合併症を考慮し,医師の判断によって自由に選択できる」と結論づけた。

コメンテータの水野杏一氏(日本医科大学)は,日本人では欧米人に比べて冠動脈疾患リスクが低く,副作用と効果とのバランスを考慮したうえで最適なスタチンを選択する必要があることを指摘。「第3世代のスタチン3種類の安全性と有効性を直接比較した今回のデータは大変貴重であり,価値ある研究」と評した。

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