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[学会情報]第33 回日本高血圧学会総会
(2010 年10 月15 ~17日 in 福岡)
< 高得点演題1(疫学)>
<高得点演題1(疫学)>
AVA-E Study Albuminuria Validation Analysis—Epidemiological Study
日本人高血圧症例におけるアルブミン尿の実態

渡辺毅氏
渡辺毅氏
(福島県立医科大学腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科)

【10 月15 日・福岡】

研究背景/目的 多くの研究から尿中アルブミン濃度が,慢性腎疾患(CKD)および心血管疾患(CVD)発症の予知因子として有用であることが証明されている。オランダで行われた観察研究であるPREVEND では,一般住民において,尿中アルブミン量の増加と心血管イベントの増加が相関することが示された(Circulation 2002; 106: 1777-82.[PubMed] )。Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium によるメタアナリシスによれば,尿中アルブミン/ クレアチニン比は全死亡,心血管死亡と正の相関を示す(Lancet 2010; 375: 2073-81.[PubMed] )。また,Alberta Kidney Disease Network のコホート研究からは尿中アルブミン量が増加するほど死亡率が高くなることが示されている( JAMA 2010;303: 423-9.[PubMed] )。

一方,高血圧患者においては高頻度でアルブミン尿が発現するとされている。ドイツで行われた研究では,非糖尿病の高血圧症例の約3 割で微量アルブミン尿が観察され( J Hypertens 1996;14:223-8.[PubMed] ),日本人を対象として未治療本態性高血圧患者における脈波伝搬速度を検討したJ-TOPP 研究のコホートでも,約3 割にアルブミン尿が認められている(Hypertens Res 2006; 29: 515-21.[PubMed] )。

しかし,わが国の高血圧患者でのアルブミン尿の実態は,尿中アルブミン/ クレアチニン比検査が保険適応となっていないため不明な点が多い。 AVA-E Study では,日本の高血圧症例のアルブミン尿の実態把握と要因解析を目的として,外来高血圧患者を対象とした全国的な調査を行い,福島県立医科大学の渡辺毅氏によって報告された。

方法 AVA-E Study の調査期間は2009 年9 月から2010 年3 月まで約6ヵ月間。外来高血圧患者に尿中アルブミン/ クレアチニン比(UACR)定性検査を実施,一般内科を主体とする全国639 人の協力医師から,8,963 症例の調査データをインターネットにより回収した。調査項目は,UACR のほかに性別,年齢,身長・体重,CKD(慢性腎臓病)の診断状況,危険因子・合併症・既往症,外来血圧値,尿蛋白検査,降圧薬の処方状況を必須項目とし,腹囲,eGFR(推定糸球体ろ過量),血清クレアチニン値を任意項目とした。外来血圧値については明らかな誤入力(外れ値)を認めた7 症例のデータを除く8,956 症例,eGFR は算出可能な7,350 症例を解析対象とした。UACR 定性検査では試験紙法を用いて行われ,正常域,微量アルブミン尿に相当する異常域,顕性蛋白尿にあたる異常域(高度)の3 群に分類された。

調査結果 対象患者全体の背景は,男性50.7%,平均年齢67.4 歳,平均身長158.1cm,平均体重61.8kg,平均BMI 24.6kg/m2,収縮期血圧/ 拡張期血圧は平均138.3/78.7mmHg であった。また,日本人を代表的するサンプリング調査である国民健康・栄養調査(平成18 年)における高血圧患者の年齢分布,厚生労働省の患者調査(平成17 年)における高血圧患者の地域分布とほぼ同様であり,AVA-E Study の患者背景は日本の高血圧患者の実態をほぼ反映していると考えられた。

対象患者8963 例における危険因子・合併症・既往症についてみると,喫煙18%,糖尿病35%,高LDLコレステロール血症41%,低HDL コレステロール血症11%,高トリグリセライド血症30%,心筋梗塞4%,脳卒中5%,そのほかの合併症は24%であり,いずれの合併症もなかったのは19%。平均eGFR は69.7mL/ 分/1.73m2,担当医の診断によるCKD の頻度は20.8%であった。

UACR は,正常域が57.1%であり,異常域35%,異常域(高度)7.9%をあわせたアルブミン尿陽性症例は42.9%であった。尿蛋白定性検査では,(-)68.2%,(±)13.8%,(+)8.0%,(++)3.5%,(+++)1.3%,未実施5.1%であったが,尿蛋白(-)例においても,30%がUACR 異常域あるいは異常域(高度)であり,尿蛋白(±)例では63%が異常域あるいは異常域(高度)であった。

一方,eGFR とUACR の関係をeGFR 60 以上,45~60,30~45,30mL/ 分/1.73m2 未満の4 分類に分けてみると,eGFR の低下とともにUACR の正常域の患者割合は62%から21%まで減少したが,これには顕性蛋白尿にあたる異常域(高度)が6%から39%へと上昇したことが大きく寄与したと考えられる。

UACR が異常域あるいは異常域(高度)を示す危険因子を多変量解析で求めたところ,年齢(+ 1 歳;オッズ比:1.016),血圧(対正常血圧;正常高値:1.331,I 度高血圧:1.479,II 度およびIII 度高血圧:1.736),喫煙(1.294),糖尿病(1.559),eGFR(対eGFR 60mL/ 分/1.73m2 以上;45~60mL/ 分/1.73m2:1.490,30~45mL/ 分/1.73m2: 3.253,30mL/ 分/1.73m2 未満:5.121)がリスク上昇に働き,RA 系阻害薬投与(0.847)がリスク減少に働く有意な因子となった。

さらに収縮期血圧のレベル(130mmHg 未満,130~139mmHg,140~149mmHg,150mmHg 以上)あるいは合併症(喫煙,糖尿病,脂質異常症,脳卒中もしくは心筋梗塞,その他の合併症)の個数とUACR の関係をみると,収縮期血圧のレベル,合併症の個数の増加に伴いUACR の異常域あるいは異常域(高度)の割合が高くなった。

渡辺氏はAVA-E Study の結果から「日本人の高血圧患者において,アルブミン尿は高頻度で出現する。尿蛋白検査陰性例においても約3 割でアルブミン尿陽性となるなど,高血圧患者におけるアルブミン尿の実態が示された」と結んだ。

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