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[学会情報]第33 回日本高血圧学会総会
(2010 年10 月15 ~17日 in 福岡)
< 高得点演題1(疫学)>
<高得点演題1(疫学)>
端野・壮瞥町研究
地域一般住民における空腹時血糖高値の高血圧罹患リスクに関する検討
—端野・壮瞥町研究より—

大西 浩文氏
大西 浩文氏
(札幌医科大学医学部内科学第二講座)

【10 月15 日・福岡】

研究背景/目的 近年,日本糖尿病学会から空腹時血糖値(fasting plasma glucose: FPG)に関する新しい区分として,100~109mg/dLを「正常高値血糖」として取り扱い,それ以下の正常血糖者とは区別したうえで注意深い観察と個々の状況にあわせた指導を行うことが重要であるとの報告がなされた。また,特定健診・特定保健指導においても,保健指導が必要とされるFPGのカットオフ値は100mg/dLとされていることから,このカットオフ値の有用性について検討することが必要と考えられた。

一方,糖代謝異常を有する人では高血圧を発症するリスクが高くなることが知られているが,FPG 100mg/dLというカットオフ値を用いた空腹時血糖高値(impaired fasting glucose: IFG)と高血圧発症リスクとの関連を検討した研究は少ない。

そこで,端野・壮瞥町研究の地域一般住民におけるIFGと高血圧発症リスクとの関連について,100mg/dLと110mg/dLをそれぞれカットオフ値として用いた場合のリスク予測能が比較・検討され,その結果が札幌医科大学の大西浩文氏によって報告された。

方法 1994年(ベースライン)の北海道北見市端野町または北海道有珠郡壮瞥町の住民検診の受診者のうち,糖尿病を有している人(FPG≧126mg/dLまたは糖尿病治療中),高血圧を有している人(収縮期血圧≧140mmHg,拡張期血圧≧90mmHgかつ/または高血圧治療中),ならびにデータに不備のある人を除外した1,039人を平均5年間追跡した。

FPGのカットオフ値を2つ(100mg/dL,110mg/dL)を用いて,対象者をそれぞれについて以下のように2群に分け,追跡期間中の高血圧発症リスクを比較した。
(1) FPG 110mg/dLをカットオフ値としてIFG(IFG-110群,52例)と非IFG(非IFG-110群,987例)の2群を設定
(2) FPG 100mg/dLをカットオフ値としてIFG(IFG-100群,200例)と非IFG(非IFG-100群,839例)の2群を設定

調査結果 FPG 100mg/dL,110mg/dLのどちらのカットオフ値を用いた場合でも,IFGの人は非IFGの人に比して有意に年齢,男性の割合,BMI,血圧,トリグリセライド,喫煙率が高く,血糖値以外にも代謝異常を有していることが示された。

Kaplan-Meier法によりIFGの人と非IFGの人の累積高血圧発症率の比較を行った。カットオフ値として110mg/dLを用いた場合には,IFG-110群と非IFG-110群との累積発症率に有意な差はみられなかった(log rank検定のP=0.493,Wilcoxon検定のP=0.864)。一方,カットオフ値として100mg/dLを用いると,IFG-100群で非IFG-100群に比して有意に累積発症率が高いことが示された(log rank検定のP<0.001,Wilcoxon検定のP<0.001)。

Cox比例ハザードモデルによりIFGの高血圧発症リスクを検討した結果,カットオフ値に110mg/dLを用いると,IFG-110群では,非IFG-110群に比した有意なハザード比の上昇はみられなかった(年齢,性別,喫煙,飲酒,高血圧家族歴で調整)。さらにBMIによる調整,ならびにベースラインの正常高値血圧(収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHg)の有無による調整を行っても,結果は同様であった。一方,カットオフ値に100mg/dLを用いると,IFG-100群では非IFG-100群に比した有意なハザード比の上昇が認められた(ハザード比[HR]1.39,95%信頼区間1.14~1.80,P<0.05)(年齢,性別,喫煙,飲酒,高血圧家族歴で調整)。この結果は,さらにBMIによる調整を行っても同様であった。しかし,年齢,性別,喫煙,飲酒,高血圧家族歴に加えてベースラインの正常高値血圧の有無による調整を行うと,有意差は消失した。

血糖と血圧,そして調整因子として考慮した肥満の三者はたがいに密接に関連していると考えられることから,IFG-100群の高血圧発症リスクに関して,肥満の有無による層別化解析を行った。その結果,BMI<25kg/m2の非肥満者では,IFG-100群の非IFG-100群に比した高血圧発症のハザード比が有意に高くなっていた(HR 1.52,95%信頼区間1.20~1.93,P<0.05)(年齢,性別,喫煙,飲酒,高血圧家族歴で調整)。この結果は,さらにベースラインの正常高値血圧の有無による調整を行っても同様であった。一方,BMI≧25kg/m2の肥満者では,IFG-100群の有意なリスク上昇はみられなかった。

この結果をうけ,肥満の有無により層別化したうえでIFG-100群と非IFG-100群のベースライン対象背景を比較した。非肥満者ではIFGの人で非IFGに比して有意に血圧が高い,脂質値が高いなどの代謝異常が認められたのに対し,肥満者ではIFGと非IFGの人で対象背景はほぼ同等であった。これは,肥満を有している人では,その影響としての血圧値,脂質値の異常が,軽度ながらベースライン時にすでにあらわれていたためと考えられた。

以上の結果から,大西氏は「従来のカットオフ値であるFPG 110mg/dLを用いるとIFGは高血圧発症の有意な予測因子とはならなかったものの,100mg/dLをカットオフ値とした場合のIFGは将来の高血圧発症の有意な予測因子となった」とした。また,肥満による層別化解析の結果をまとめ,「BMI<25kg/m2の非肥満者では,FPG 100mg/dL以上としてみたIFGが,ベースラインの正常高値血圧の有無とは独立して高血圧発症のリスクとなることが示された。肥満者においてはIFGの有無にかかわらず肥満それ自体が高血圧のリスクとなることから,減量を主体とした介入が重要となるが,非肥満者の場合は,IFGに対しての保健指導において,血糖値低下に向けた指導のみならず,減塩なども含めて高血圧に対する生活習慣見直しについてもあわせて指導することが重要と考えられた」と結んだ。

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