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[学会情報]第33 回日本高血圧学会総会
(2010 年10 月15 ~17日 in 福岡)
< 高得点演題1(疫学)>
<高得点演題1(疫学)>
端野・壮瞥町研究
インスリン感受性と経時的血圧変化の検討

三俣 兼人氏
三俣 兼人氏
(札幌医科大学医学部内科学第二講座)

【10 月15 日・福岡】

研究背景/目的 インスリン抵抗性は,将来の高血圧発症の予測因子であることが示されている。しかし,インスリン抵抗性が経時的にどのように血圧の変化に影響を及ぼすのかについては,これまでに報告がない。
そこで,端野・壮瞥町研究においてインスリン抵抗性と経時的な血圧変化との関連について検討が行われ,その結果が札幌医科大学の三俣兼人氏によって報告された。

方法 1991~1992年の北海道北見市端野町または北海道有珠郡壮瞥町の住民検診において75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施した1,578人(男性661人,女性917人)を対象とし,5年間の追跡を行った。

インスリン抵抗性の指標としてはMatsuda-DeFronzo Index*を用い,以下のように全体を三分位に分けて解析を行った。

 インスリン抵抗性高値群: Matsuda-DeFronzo Index≦5.44
 インスリン抵抗性中値群: 5.44<Matsuda-DeFronzo Index≦15.20
 インスリン抵抗性低値群: 15.20<Matsuda-DeFronzo Index

* Matsuda-DeFronzo Index=10,000/[(糖負荷前血糖値×糖負荷前血清インスリン値)×(OGTT中の平均血糖値×OGTT中の平均血清インスリン値)]1/2
値が低いほど,インスリン抵抗性が高い状態を示している。HOMA-Rが肝臓を中心としたインスリン抵抗性を示す指標であるのに対し,Matsuda-DeFronzo Indexは全身のインスリン抵抗性を評価するために開発された。

経時的な血圧変化については血圧値を従属変数,時間を説明因子としたランダム係数モデル(マルチレベルモデル)を用いて解析を行った。これは,観察研究において血圧のような値を反復測定する場合,各測定データが独立した値ではなく個体内での相関を有すること,データに欠損値が存在することや反復測定の条件が毎回同一ではないことなどを考慮する必要があるためである。
時間と血圧値との関連を検討する統計モデルを5つ設定し,各モデルの赤池情報量基準**(Akaike Information Criterion: AIC)を算出してもっとも適合度の高いモデルを採用した。さらに,別の解析対象を設定したモデルによる感度分析も行った。

**モデル適合度の指標。値が低いほどモデルの適合度が高いことを示している。

調査結果 対象背景は,年齢60.08歳,BMI 23.75kg/m2,血圧132.91/77.59mmHg,トリグリセライド130.46mg/dL,尿酸5.56mg/dL,Matsuda-DeFronzo Index 12.05であった。総受診回数は6,454回であり,1人あたりの平均受診回数は3.39回だった。インスリン抵抗性高値群,中値群,低値群における対象背景を比較した結果,インスリン抵抗性が高いほど年齢,BMI,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),トリグリセライド,尿酸,降圧薬内服者数が高いという有意な傾向が認められた。一方,インスリン抵抗性が高いほど受診回数が少ないという有意な関連も認められ,対象者の健康状態や健康への意識を反映したものと考えられた。

SBPの経時的変化について,設定した5つの統計モデルの適合度を比較した結果,もっとも適合度の高いモデルとして,関係式「SBP=β×時間(年)0.5+b(ただしβおよびbは任意の係数)」を採用した。このモデルに基づいてインスリン抵抗性高値群,中値群,低値群における血圧の経時的変化の比較を行った結果,ベースラインのSBPは高値群>低値群>中値群であったが,その後の5年間で高値群および中値群において有意な増加が認められた。低値群では有意な経時的変化はみられなかった。
この結果は,別に対象を設定した感度分析でも同様であった。

DBPの経時的変化について,設定した5つの統計モデルの適合度を比較した結果,もっとも適合度の高いモデルとして,関係式「DBP=β1×時間(年)+β2×時間(年)0.5+b(ただしβ1,β2,bは任意の係数)」を採用した。このモデルに基づいてインスリン抵抗性高値群,中値群,低値群における血圧の経時的変化の比較を行った結果,ベースラインのDBPは高値群で中値群および低値群に比して有意に高かった。その後の5年間で,高値群と中値群では急峻な増加ののちに低下する傾向を示していた。低値群でも増加ののちに低下する傾向がみられたが,その変化は緩徐であった。
この結果は,別に対象を設定した感度分析でも同様であった。

以上の結果から,三俣氏は「インスリン抵抗性の指標であるMatsuda-DeFronzo Indexは,その時点での血圧の規定因子であるのみならず,将来の血圧上昇の規定因子であることが示された」とし,さらに「インスリン抵抗性が中等度の対象においては,ベースラインの血圧が低値であっても,その後の血圧上昇幅が大きいことが示された。このことから,将来の血圧上昇を予防するために,インスリン抵抗性を指標としたリスク層別化などを考慮に入れた対策が必要と考えられた」と結んだ。

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