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[学会情報]米国心臓病学会(ACC)2011
画期的な結果,今後さらなる予後の改善も
––TAVIについてMoliterno氏に聞く

ニューオーリンズにて開催中のACC 2011のLBCTにて,4月3日,PARTNER試験が発表となった。検討されたのは,高リスクの重症大動脈狭窄症患者に対する新しい治療法「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)」。従来の外科手術への非劣性が認められ,大きな話題をよんでいる。ケンタッキー大学医学部心臓病学のDavid J. Moliterno氏に感想を聞いた。

開胸大動脈弁置換手術に対する非劣性が示された

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)について検討しているPARTNER試験は,高リスクの重症大動脈狭窄症患者1,057人を対象とした大規模試験で,「A」と「B」の2つからなっています。すでに報告されているコホートBのほうでは,手術不適応とされた358例を薬物治療群とTAVI群に割り付け,一次エンドポイントである1年後の全死亡について,TAVI群で20%の絶対リスク低下が示されました(N Engl J Med. 2010; 363: 1597-607. [PubMed] )。

今回のACC2011では,高リスクの699例(コホートA)を対象として開胸大動脈弁置換術(AVR)とTAVIを比較した結果が発表されました。一次エンドポイントである1年後の全死亡について,両群の発生率は同等で,AVRに対するTAVIの劣性は認められませんでした。TAVI群では,AVR群よりも脳卒中と大血管合併症の発症率が高くなっていましたが,大出血や心房細動などの不整脈の発症率は低いことが示されました。

外科医とインターベンション医の協同が必須

TAVIのような手技では,チーム医療が不可欠です。PARTNER試験では,プロトコールに基づいて外科医とインターベンション医が参加しており,患者の手術適応を決定する際には両者の同意が必須となっています。また,今回のコホートAにおける両群のイベント発生率は少なく,AVRあるいはTAVIによって予想を上回るすばらしいアウトカムが得られました。これは,インターベンション医,胸部外科医,麻酔医,画像診断医の協力の賜物ではないかと思います。外科医はインターベンション医とともに手術適応例の選択や意思決定のプロセスにも深く関与していました。

実際の臨床現場でも,少なくともTAVIの導入直後はチーム医療が必要となるでしょう。バルーン血管形成術の初期には,手技が行われている間は外科医と麻酔医が隣室に待機し,緊急手術に備えていたものです。TAVIの最初の数年も同様だと考えられます。心尖部アプローチの場合は外科医と麻酔医が心臓に直接アクセスする必要がありますが,血管から経皮的にアプローチする場合,外科医は手技そのものには関わりません。しばらくすればインターベンション医はより外科医に近く,また外科医はよりインターベンション医に近くなり,両者の『ハイブリッド』としてのインターベンション医・外科医がTAVIの手技のすべてに対応できるようになるでしょう。

スタンダードの治療と同等の効果を示した画期的な結果

PARTNER試験の結果は,画期的かつ歴史上重要だといえます。今回のように,数十年にわたって行われてきたスタンダードの治療に対し,新しい治療が最初の試験で同等の効果を示したという結果には,なかなかお目にかかれるものではありません。

今後の展望ですが,コホートBの結果発表から現在までの短い期間においてさえ,TAVI群のアウトカムは改善傾向にあります。PARTNER試験で用いられたのは第一世代のデバイスですから,「ステント時代」と同様,これからTAVIのデバイスの改善が進むことで,さらなる予後の改善が期待できるはずです。

米国ではTAVIはまだ承認されておらず,治療を行えるのは研究参加施設に限られています。承認後は,まず弁形成術の高いスキルを有する施設で実施されると思います。心臓インターベンション医もTAVIを行えるように,トレーニングを受けることになるでしょう。

Profile: Dr. David J. Moliterno, MD, FACC
ケンタッキー大学医学部心臓病学部門長。

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