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[学会情報]米国心臓病学会(ACC)学術集会2011
虚血性心不全患者はCABGを受けるべき
––CABGについてBolling氏に聞く

ニューオーリンズにて開催中のACC 2011のLBCTにて,4月4日,CABG関連トライアルであるSTICH試験とPRECOMBAT試験が発表となった。虚血性心不全に対するCABGについて検討したSTICH試験では,一次エンドポイントには薬物療法との有意差がみられていない。しかし,per-treatment解析ではCABGの有意な死亡抑制効果が示された。専門家はこの結果をどのように捉えているのか。PRECOMBAT試験の結果と併せ, ミシガン大学医学部外科学のSteven F. Bolling氏に感想を聞いた。

虚血性心不全患者はCABGを受けるべき

STICH試験では,重症心不全患者においても,バイパス手術によるベネフィットが得られるということがはっきり示されました。すばらしい結果を示した試験であり,同時に,実施がとても困難な試験でもありました。

ITT解析とper-treatment解析の両方の結果が発表されていますが,重要なのは後者です。薬物療法群のなかには,実際はCABG群にクロスオーバーされた患者も含まれており,それで得られた結果は,良くも悪くも手術によるものだからです。

一次エンドポイントの全死亡について,ITT解析ではわずかに統計学的有意差に至らないという結果でしたが,10%の患者がクロスオーバーされているため,プラスもしくはマイナス20%の誤差があると考えられます。実際の治療効果についてみてみると,あきらかに統計学的有意差がついたといえるのではないでしょうか。考えてみてください。薬剤で,STICH試験のper-treatment解析と同じような治療効果が得られるものは1つもないのです。

STICH試験からの一番重要なメッセージは,虚血性心不全患者がCABGを受けるべきだということです。患者のなかには,治療によって,とくによい結果が期待できるサブグループがいくつかあると考えられますから,発表された文献を注意深く読み,またこれから行われる解析の結果もあわせて検討する必要があります。

心筋バイアビリティが低くても手術を

STICH Viability試験の結果も大変興味深いものでした。心筋バイアビリティの低い患者でも,薬物治療に対するCABGの予後が良好だったという結果には驚いています。ただ,今回の試験では検査を受けた患者数が少なく,「だから心筋バイアビリティ検査はやらない」という方針転換をするには十分な結果とはいえません。私も,引き続き行います。血行再建術の有無にかかわらず,心筋バイアビリティがよいということは良好な長期予後の予測因子になるはずだからです。

STICH Viability試験から示されたのは,心筋バイアビリティにかかわらず,CABGにより予後が改善されたということです。心筋バイアビリティが低いからといって手術を避けるべきではありません。

重症心不全患者での手術の適応については,患者の体力,標的血管,合併症,手術の難易度などを考えあわせて決定することが重要です。心筋バイアビリティより重要な因子もあります。

左主幹部病変にもPCIを行うことが可能

PRECOMBAT試験では,左主幹部病変についてもPCIを実施できることが示されました。非常に興味深い結果です。一部の患者には新たな治療選択肢が与えられることになるでしょう。

今回,治療の対象となったのはどのような病変だったのか,データを注意深く見て理解する必要があると思います。PCIかCABGかということについては,これまでと何ら変わりなく,合併症やカテーテル術を行うにあたっての解剖学的特徴など,1人1人の患者の状況を全体的に評価したうえで決定されるべきです。治療についても,こうした状況をすべて考慮しながら個々のケースに応じて行われるべきであり,心臓インターベンション医と患者との話し合いも大切なプロセスの一つです。

Profile: Dr. Steven F. Bolling, M.D.
ミシガン大学医学部外科学教授。

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