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[学会情報]米国心臓病学会(ACC)学術集会2011
CABGは虚血性心不全にも有効,ただし代償も伴う
––CABGについてGersh氏に聞く –前編
後編を読む: CABGかPCIか,それは病変の位置,数,広がり,複雑性で決まる

ニューオーリンズで開催されたACC 2011のLBCTにて,4月4日,CABG関連トライアルであるSTICH試験とPRECOMBAT試験が発表となった。虚血性心不全に対するCABG について検討したSTICH試験では,一次エンドポイントには薬物療法との有意差がみられていない。しかし,per- protocol解析ではCABGの有意な死亡抑制効果が示された。専門家はこの結果をどのように捉えているのか。メイヨークリニック医学校のBernard Gersh氏に感想を聞いた。

「冬眠心筋」の概念が土台となったSTICH試験

1960年代,世界的な心臓病学の権威であった故George Birch氏は,虚血性心筋症,つまり心不全で来院した患者が実は冠動脈疾患を有していたという病態について発表しています。こののち,南カリフォルニア大学の研究者によって「冬眠心筋」の概念が提唱され,これがSTICH試験の構想の土台となっています。

左室機能障害(LVD)患者では,虚血は強力な予後決定因子です。逆に,虚血性心疾患患者では,LVDがもっとも重要な死亡予測因子になります。このように,虚血とLVDの合併には注意が必要であり,バイパス手術が適応されるべきと考えられます。このことを裏付ける臨床試験はたくさんありますが,その多くが古いデータです。手術の危険も今に比べてかなり高かったため,25年前なら,STICH試験のような患者に手術をするのは「最先端の治療」ではありませんでした。

CABGによる死亡抑制効果が認められたと捉えるのが妥当

STICH試験では,手術可能な重症虚血性心不全患者を対象にCABG+薬物療法と薬物療法のみの有用性が比較されました。一次エンドポイントである全死亡は,intention-to-treat解析では有意な群間差は認められませんでしたが,死亡+心血管イベントによる入院の複合はCABGによるはっきりとした抑制効果が示されました。

さらに,今回はper-protocol解析やon-treatment解析も実施され,これらの解析では,CABGによる有意な死亡抑制効果が明確に示されました。今回のon-treatment解析の結果は非常に重要だと思います。CABG群に割り付けられた患者の9%が,実際にはCABGを受けなかったからです。

この試験は,患者の重症度が高く,実施も非常に難しい試験でした。重症例を試験に組み入れてランダム割付けするのは困難ですし,そもそも手術が可能な重症例であれば,医師は当然,バイパス手術を行って患者を救いたいと考えるでしょうから,割付け可能な患者を見つけること自体が難しかったはずです。

心筋バイアビリティについては解釈が難しい結果

STICH試験の前向きサブスタディであるSTICH Viability試験の結果は,非常にわかりにくいものでした。とくに,心筋バイアビリティのある例に比べ,ない例のほうがCABGのベネフィットが大きかったというのは,解釈が難しい結果です。ひとつ考えられるのは,心筋バイアビリティがないほどの重症例だからこそ,CABGのメリットが大きかったのではないかということです。このような厳しい状態にある患者は,心筋梗塞がもう一度起これば致命的になりますから,CABGにより再発を予防できたことが良好な予後につながったのかもしれません。ただし,これは今回のデータからは検証できません。現在進行中のさまざまな解析結果もみて,判断していく必要があります。

STICH Viability試験では,同意した患者でのみ心筋バイアビリティの判定を行っており,ランダム割付けが行えなかったため,選択バイアスの可能性もあると考えられます。

心不全患者の手術にはそれなりの代償が伴う

では,STICH試験のこれらの結果を臨床現場でどのように生かせるでしょうか。まず1つは,心不全患者に対して,医師はその心不全の病因を明らかにし,冠動脈疾患をもつ患者を同定する責任があるということです。もし冠動脈疾患であれば,STICH試験の結果をふまえてCABGによるベネフィットが期待できることから,さらに手術の適応を判断する必要があります。具体的には血管造影を行うのがよいでしょう。

もう1つは,治療方法は個々の患者の状況に応じて決定されるべきだということです。手術を行う患者の選択は慎重に行わなければならず,年齢,腎機能,その他の合併症も考慮しなくてはなりません。心不全患者の手術には,それなりの代償が伴います。今回の結果をうけて,患者にできる説明はこのようになると思います。

『CABGを実施した場合は,術後早期に死亡リスクが少し高まりますが,その時期を乗り切れば心不全入院リスクは下がります』

私は,自分の患者にはしかるべき方法で心筋バイアビリティ検査を続けたいと思います。今回は心筋バイアビリティの判定にドブタミン負荷心エコーと心筋SPECTが用いられましたが,PETや心臓MRIのほうが望ましいと考えられるため,手法に疑問をもつ人もいるでしょう。MRIを使えば,心筋バイアビリティだけでなく,瘢痕組織,リモデリングの範囲,左室容積などの評価も可能です。具体的には,もしある患者で心筋バイアビリティがなく,瘢痕組織が多くみられたとしたら,私は手術には踏み切りません。

Profile: Dr. Bernard Gersh, MB, ChB, D.Phil, FRCP, FACC
メイヨークリニック医学校教授。専門は冠動脈疾患,臨床電気生理学,成人先天性心疾患,心筋症など。Circulation,Journal of American College of Cardiology,European Heart Journalなど25の専門誌の編集委員で,これまでの自身の発表論文は650以上にのぼる。AHA臨床心臓病学部門の元議長,ACCの元評議員であり,現在はWHOの心血管ワーキンググループ議長も務める。

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