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[学会情報]米国心臓病学会(ACC)学術集会2011
既存のエビデンスと一致する結果
––降圧薬治療についてCushman氏に聞く

ニューオーリンズにて開催されたACC 2011のLBCTにて,4月5日,日本人高血圧患者を対象としたトライアル,OSCAR試験とNAGOYA HEART試験が発表となった。OSCAR試験では高リスク患者における高用量ARB単独療法と低用量ARB+Ca拮抗薬併用療法の比較,NAGOYA HEART試験ではARBとCa拮抗薬の比較が行われ,いずれも有意な群間差はみられなかった。この結果をどう解釈することができるか。ALLHAT試験の主任研究者で,専門委員としてJNC8の執筆にも携わっているテネシー大学メンフィス校医学部予防医学教授のWilliam C. Cushman氏に感想を聞いた。

日本人患者を対象に,既存のエビデンスと一致する結果を示した

William C. Cushman氏

今回発表されたOSCAR試験とNAGOYA HEART試験は,日本人患者を対象として,これまでに欧米の試験で得られているエビデンスと一致する結果を示しました。いずれも小規模なトライアルであり,薬剤の効果や臨床への応用について決定的なことはいえませんが,パイロットスタディや治療の実現可能性を検証する研究としての意義がある有用な情報です。ここから新たな仮説が生まれるかもしれませんし,今後の降圧薬のメタ解析にも重要な情報を付加するものだと思います。新しいクラスの降圧薬を評価するためには,効果の直接比較研究を行うことが大変重要です。両試験を実施した日本の医師に,拍手を送りたいと思います。

OSCAR試験とNAGOYA HEART 試験はともにPROBEデザインを採用していますが,降圧治療の比較試験は,常にバイアスの可能性があることを考えて二重盲検デザインにするべきです。ただし,現在発表されているデータをみる限り,どちらも系統的バイアスはないようでした。

両試験の各群の症例数は約500人と少なめで,残念ながら,このデータからはイベントの正確な発生率はわかりません。同様に高リスク患者を対象とした降圧薬の直接比較試験であるALLHAT試験・INVEST試験では,各群の症例数は約20倍であり,ACCOMPLISH試験でも約10倍です。

また,両試験とも,多くのアウトカムを含む複合エンドポイントによる評価を行っており,なかには主要心血管イベントとしては疑問といわざるをえないアウトカムも含まれていました。それでも,イベント発生率は予想より低くなってしまったようです。

よい降圧薬を適量で用いた併用療法は有用― OSCAR試験

OSCAR試験は,高用量オルメサルタンによる単独療法と,低用量オルメサルタン+Ca拮抗薬による併用療法の効果を比較した試験です。予想どおり,血圧は併用療法群のほうが有意に低くなっていました。一次エンドポイントの発生リスクは,単独療法群にくらべて併用療法群で低い傾向がみられましたが,有意差はありませんでした。ハザード比の信頼区間も広く,臨床的に重要な結果とはいえません。この試験から明らかになったのは,高用量の降圧薬を単独で用いるよりも,よい降圧薬を併用したほうが有益な可能性があるということです。

一次複合エンドポイントには,腎機能障害や糖尿病細小血管障害などが含まれています。症例数が少ないなかで十分な数のイベントを観察するためだと考えられますが,非常に誤解を招きやすく,解釈には注意が必要です。一次複合エンドポイントの結果の内訳については,詳しいデータは示されていません。狭心症や腎機能など,Ca拮抗薬に有利なアウトカムもいくつか含まれており,ハードエンドポイントには必ずしも反映されていないかもしれませんが,Ca拮抗薬によるなんらかのベネフィットがあったのではないかと思います。

いまのところ,試験薬以外の治療内容は明らかにされていませんが,おそらく単独療法群では追加薬が多かったのではないでしょうか。良くも悪くも,それが結果に影響している可能性があります。

私は,基本的には単独療法より併用療法のほうが望ましいと考えています。しかし,低用量での二剤併用療法が,確立されたエビデンスをもつ薬による高用量・単独療法より優れているとは思いません。これまでの臨床試験の結果をみると,よい結果が得られるのは,試験薬をほぼ最大用量で用いている場合がほとんどです。低用量についてのデータはほとんどありません。

ACCOMPLISH試験では, ACE阻害薬+利尿薬群に比してACE阻害薬+Ca拮抗薬群の心血管疾患リスク抑制効果が優ることが示されましたが,その理由としてもっとも大きいのは,利尿薬ヒドロクロロチアジドの用量が,効果が期待できる最低量よりさらに少なかったことだと考えられます。そのほかの試験からは,高用量であればヒドロクロロチアジドが十分な効果,少なくともCa拮抗薬と同等の効果をもつことが示されています。

適切な用量であれば,サイアザイド系利尿薬+ACE阻害薬の併用によるイベント予防効果は高く,とくに心不全に対する予防効果を発揮します。また,RA系阻害薬にCa拮抗薬または利尿薬を追加すると,脳卒中に対するベネフィットが期待できます。ただし,こうした併用を低用量で行うのは適切ではありません。

VALUE試験を補足する結果―NAGOYA HEART試験

NAGOYA HEART試験は,ARBバルサルタンとCa拮抗薬アムロジピンの比較試験です。規模が小さく,エンドポイントの検出力も不足しているため,決定的な結果を示したというより,10倍の症例数で同じ比較を行ったVALUE試験の結果を補足するものといえます。VALUE試験と異なっているのは,対象が2型糖尿病もしくは耐糖能障害であったことです。これまでのALLHAT試験,ACCOMPLISH試験,VALUE試験などで高血圧患者の耐糖能障害に着目したものはほとんどありませんでしたが,現実的にはこれらの対象者の多くが2型糖尿病や耐糖能障害を合併していたと考えられます。

一次複合エンドポイントで群間差がみられないという結果も,VALUE試験と同様でした。さらに,NAGOYA HEART試験ではバルサルタン群で心不全リスクが有意に低下し,心筋梗塞リスクは逆にアムロジピン群のほうが低い傾向がみられました。VALUE試験では,心不全についてはバルサルタン群でリスク低下傾向,心筋梗塞についてはアムロジピン群で有意なリスク低下がみられましたから,NAGOYA HEART試験はほぼ同じ結果であったといえます。

このように,NAGOYA HEART試験の結果はこれまでのエビデンスと一致しています。すなわち,Ca拮抗薬を用いた初期治療により心不全を防ぐことはできず,ACE阻害薬・ARB・利尿薬のほうが効果が高いこと,しかし心血管イベント全体でみた場合は,これら4つのクラスの薬剤の効果がほぼ同等であることなどです。なお,脳卒中に対するCa拮抗薬の効果は,NAGOYA HEART試験ではみられませんでした。

Profile: Dr. William C. Cushman
テネシー大学メンフィス校医学部予防医学教授,および退役軍人メディカルセンターの予防医学部門長で,米国高血圧学会の評議員も務める。専門は高血圧・脂質異常症の予防と治療,心血管疾患の予防,循環器疫学など。ALLHAT試験の主任研究者を務めたほか,VA Cooperative試験,ACCORD試験など数多くの高血圧・脂質領域の臨床試験に参加しており,専門委員としてJNC8の執筆にも携わっている。

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