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[学会情報]米国心臓病学会(ACC)学術集会2011
SPECIAL INTERVIEW
今後10年間で外科手術は必要なくなる
––TAVIについてACC2011プログラム委員長に聞く

ニューオーリンズで開催されたACC2011のLBCTにて,4月3日,PARTNER試験が発表となった。高リスクの重症大動脈狭窄症患者に対し,新しい治療法「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)」が検討された。従来の外科手術に対する非劣性が認められ,注目を集めている。ACC2011のプログラム委員長Michael H. Crawford氏に感想を聞いた。

TAVIでは脳卒中予防が課題

—なぜ,大動脈狭窄に対して,外科手術以外に,経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が必要なのでしょうか?

大動脈狭窄の治療では,従来,外科手術が行われてきましたが,患者のなかには手術が受けられない高リスクの症例も存在します。そのため,外科手術以外の治療法としてTAVIが必要とされているのです。また,患者自身も外科手術を好みません。少なくとも,外科手術と同程度に有用で,より侵襲性の低い治療法があるならば,患者はそちらを希望します。

—今回発表された結果では,脳卒中や大血管イベントのリスクが高いことが示されましたが,何が原因なのでしょうか?予防法はあるのでしょうか?

TAVIでは,股関節から大動脈に非常に太いチューブ(22 French tube)を挿入しますが,大血管イベントはこのチューブの挿入によって発生します。大動脈に大きなものを挿入するため,出血や血腫などの合併症を引き起こす可能性があるのです。デバイスは改善されてきており,サイズも小さくなるでしょうから,完全に克服することはできなくとも,このような大血管イベントも少なくなっていくと考えられます。

一過性脳虚血発作などの脳卒中の発生は,施術後1ヵ月の間に多くみられました。これらがTAVIと関連しているのかは断定できませんが,TAVIを実施しなければ脳卒中の発生も少なくなるため,両者は直接に関連しているのでしょう。現在,脳卒中の原因を明らかにするため,データの評価が行われており,2011年6月に開催されるSociety of Thoracic Surgeonsで結果が発表される予定です。

生体弁の耐久性は長期での検討が必要

—PARTNER試験で使用された人工弁の耐久性と安全性について,どのように考えていますか。

人工弁の耐久性は非常に重要です。この試験の追跡期間は1年間のみでしたが,今回使われた経カテーテル生体弁の劣化を確認するにはもっと時間が必要です。問題となるのは,TAVIで用いた生体弁の有効性は,外科手術で設置された生体弁と同程度であるかという点です。生体弁の弁尖は,マストに張られた帆のようにつながれています。TAVIでは,生体弁の弁尖をサポートするものがなく,ただぶらさがっている状態ですので,この新しい弁の弁尖が疲労して壊れ,“漏れ”につながります。また,弁が石灰化するため,弁周囲の“漏れ”が多くなる可能性もあります。この“漏れ”に対しては,別の処置も必要となってくると思います。PARTNER試験では,1年間での“漏れ”の増加が認められましたが,重症なものはなく,ほとんどが軽症または中等症のものであり,臨床的問題はありませんでした。今後,時間をかけて追跡し確認していかなければなりません。

耐久性の観点からは,患者の年齢もポイントになると思います。比較的若年の患者(50歳未満)に生体弁を設置した場合,15年間の耐久性をもつことが確認されています。75歳で弁を必要とし,そのときに手術が可能であるならば,生体弁は生涯にわたり持ちこたえると考えられます。しかし,若い患者やより軽症の患者に適用する場合には,耐久性と合併症への対策を練る必要があると思います。脳卒中の発生率が減少しなければ,TAVIは若い患者にとって魅力的な治療とはいえません。

—TAVIをより発展させるために,どのようなことが必要となるでしょうか。

人工弁を設置すると血栓ができやすくなるため,抗凝固療法について考えなくてはなりません。TAVIにも抗凝固療法は必要か,もし必要ならば,どのくらいの期間,どのような薬剤を投与しなければならないか,という点が問題となります。必要とならないことを願いますが,脳卒中の発生率からすると,必要となる可能性が高いです。

費用対効果への期待

—TAVIの費用対効果についてはいかがでしょうか。チームアプローチが必要なのでしょうか。

TAVIには,大腿部からのアプローチと,心尖部からのアプローチの2つがあります。心尖部アプローチでは,心臓にアクセスするために開胸手術が必要となりますので,手術によるリスクは上昇しますが,脳卒中発生率についての差はありません。TAVI実施においては,医療者はチームを組み,外科医が必ず待機しています。アテローム性動脈硬化など大腿動脈が蛇行している患者では,大腿部からデバイスを挿入することが難しく,うまくいかない場合は心尖部からの挿入が行われます。

TAVIの施術は時間とともに簡易化されていくと思いますので,施術方法が確立された後は必ずしも外科医が待機する必要はなくなるかもしれません。冠動脈形成術と同じことです。当初,冠動脈形成術の実施に際しては外科手術室が基準とされており,外科医が対応していましたが,現在では外科手術とはみなされていません。TAVIも同じようになると考えています。

医療チームの人数が少なくなれば,TAVIの費用対効果はさらに改善します。最近,TAVIに必要な入院日数が減少して外科手術よりも2日間短くなり,費用対効果がより上昇しました。TAVIがもっと洗練されれば,入院日数はさらに短くなると思います。

外科手術が必要でなくなる可能性も

—今回のPARTNER試験の結果は,治療においてどのような影響を及ぼすでしょうか。

現在,われわれが行っている最善の弁置換術は大動脈弁の外科手術です。合併症発生率も死亡率も低く,最長の長期間成功率を誇り,最高の結果が得られています。しかし,TAVIが有望であることが確証されれば,従来の外科手術はほとんど必要なくなり,治療における大改革となるかもしれません。ACC2011では,僧帽弁閉鎖不全を対象とした僧帽弁クリップについてのEVEREST II試験の2年目の結果も発表される予定です*。もし僧帽弁クリップが,1年間の結果と同様に2年目でも良好であった場合,PARTNER試験の結果と考え合わせれば,外科手術による弁置換術は今後10年間で必要でなくなるでしょう。

* 僧帽弁閉鎖不全患者279例を対象とし,外科手術と僧帽弁クリップを比較。有効性のエンドポイントは外科手術のほうが良好であったが(55% vs 73%,P=0.007),安全性は僧帽弁クリップのほうが高く(48% vs 15%,P<0.001),僧帽弁クリップが治療戦略として有力であることが示された。

Profile: Dr. Michael H. Crawford, M.D.
カリフォルニア大学サンフランシスコ校メディカルセンター臨床心臓病学部門長。専門は冠動脈疾患,弁膜症,心不全など。AHA臨床心臓病学部門の元議長,ACCの元評議員。現在は米国内科医師会などのフェローを務める。

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