HOMED-BP | Hypertension Objective Treatment Based on Measurement by Electrical Devices of Blood Pressure |
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今井潤氏 (東北大学) |
2000年から10年にわたり行われてきたHypertension Objective Treatment Based on Measurement by Electrical Devices of Blood Pressure(HOMED-BP)研究の結果が,第34回日本高血圧学会総会のLate Breaking Session 1, 2において発表された(10月20日「電子血圧計を用いた客観的な高血圧治療に関する研究(HOMED-BP研究):主結果報告」・大久保孝義氏: 滋賀医科大学,10月21日「電子血圧計を用いた客観的な高血圧治療に関する研究(HOMED-BP研究):家庭血圧降圧レベルと予後との関連」・浅山敬氏: ルーベン大学)。学会最終日のプレスセミナーにおいては,試験統括医である東北大学の今井潤氏からHOMED-BP研究の概要についての解説が行われた。
家庭血圧測定に基づいた治療で130/75 mmHgまで降圧
HOMED-BP研究は家庭血圧を用いた世界初の長期介入試験であり,軽症〜中等症の未治療,または降圧薬をウォシュアウトした本態性高血圧患者3,500人以上の症例について,家庭血圧に基づいた長期治療・予後追跡を平均5.3年,最長8.9年にわたり行った。この研究では,降圧目標135/85 mmHgの通常管理群と,125/80 mmHgの厳格管理群の2群に分け,脳卒中,死亡などのハードエンドポイントで有意差がみられるかどうかを検討している。
HOMED-BPでは,家庭血圧は,全体として130/75 mmHgまで降圧され,外来血圧も家庭血圧と同程度まで降圧されていた。その降圧レベルは,わが国で行われたどの降圧治療介入試験よりも低く,同時に脳心血管イベント発生率も最も低かった。
WHO Collaborating Centre for Drug Statistics Methodologyが定めた,各薬剤の1日あたりの標準処方量である規定一日用量(Defined Daily Doses: DDD)により,目標血圧2群間の降圧薬強度を比較した。厳格管理群のDDDは通常管理群に比べ統計学的に有意に多かったものの,その差は僅少であり,介入開始6か月以降は両群ともDDDは微増にとどまった。
Jカーブ現象は認められないものの,厳格管理の降圧目標達成率は3割にとどまる
通常管理群の降圧目標(135/85 mmHg未満)達成率は2/3であったが,厳格管理群の降圧目標(125/80 mmHg未満)達成率は1/3に過ぎなかった。また,両群の平均血圧レベルは,1 mmHg程度の僅かな差にとどまった。目標血圧2群間でイベント発生率に差は認められなかった一方,イベント発生群の家庭血圧レベルは,非発生群に比べて服薬前・治療中ともに高値であった。
家庭血圧とイベント発生率との関係は,服薬前家庭血圧,治療中家庭血圧ともに直線的であり,Jカーブ現象は認められなかった。服薬前家庭血圧,治療中家庭血圧は,それぞれ独立してイベント発生を予測した。
これまでに行われた家庭血圧を用いた介入試験であるTHOP研究やHOMERUS研究においては,追跡期間が1年程度と短く,血圧値や臓器障害のみが評価対象であった。HOMED-BP研究は,実地診療で出会う患者像を反映した対象集団において,家庭血圧に基づいた長期間にわたる降圧治療の実現可能性とその有用性を,世界で初めて予後との関連から証明した研究である。
家庭収縮期血圧130 mmHgで脳心血管イベント5年発症リスク1%に
HOMED-BP研究の結果からは,家庭収縮期血圧を125 mmHg未満に降圧することは,実地臨床においては困難を伴うことが示された。一方,家庭収縮期血圧を130 mmHg以下に降圧することにより,脳心血管ハードエンドポイント(脳卒中発症・心筋梗塞発症・脳心血管死亡の合計)の5年発症リスクが1%以下に抑えられることが示された。すなわち,家庭収縮期血圧130 mmHgは実地臨床下において達成可能であり,しかも予後改善の観点からも降圧目標として適切であることが示唆された。