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[学会情報]日本高血圧学会(JSH)2011
編集部が選ぶ注目トライアル
Aggressive antihypertensive treatment for protecting cardiovascular complications in pre-diabetic hypertensive patients
2型糖尿病患者における朝の家庭血圧125/75 mmHg 未満を目標とした降圧薬治療の可能性

江口和男氏
江口 和男氏
(自治医科大学循環器内科)

【10 月 20 日・宇都宮】

試験背景 /目的 糖尿病合併高血圧患者に対する積極的な降圧療法の是非はいまだ結論が得られていない。高リスク 2型糖尿病患者を対象とした ACCORD BP( Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Blood Pressure; N Engl J Med 2010; 362: 1575−85)では,積極降圧群(降圧目標外来収縮期血圧(SBP)120 mmHg未満)と通常降圧群(同 140 mmHg未満)を比較し,両群間の主要心血管イベント発生率に有意差を示せなかった。

自治医科大学の江口和男氏らによって行われた, Aggressive antihypertensive treatment for protecting cardiovascular complications in pre-diabetic hypertensive patientsでは,2型糖尿病合併患者に対してイルベサルタンを基礎に家庭血圧を指標とした積極的な降圧療法を行い,降圧目標達成率,臓器障害マーカーの変化,副作用など検討している。2011年 10月 20日の第 34回日本高血圧学会総会で「糖尿病合併高血圧患者におけるARBベースの積極的降圧療法は降圧度とは関係なく血管内皮機能,augmentation indexを改善する」と題して発表された。一次エンドポイントは,血圧の正常化率(朝の家庭血圧 125/75 mmHg未満達成率)。

試験プロトコール 30歳以上の糖尿病または前糖尿病を有する高血圧患者で,0~2剤の降圧薬を服用し家庭血圧で測定した収縮期血圧が 135 mmHg以上の患者 59例。慢性心不全,急性心筋梗塞,6ヵ月以内の脳卒中発症,心房細動,肝障害,腎障害などを有する場合は除外。

家庭血圧 125/75 mmHg未満を目標とし,降圧目標に達しない場合は,下記のステップにて降圧薬を増量,併用し,6ヵ月間追跡した。

Step 1:イルベサルタン 100 mg/日
Step 2:イルベサルタン 100 mg/日+アムロジピン 2.5~5 mg/日
Step 3:イルベサルタン 100 mg/日+アムロジピン 10 mg/日
Step 4:イルベサルタン 200 mg/日+アムロジピン 10 mg/日
Step 5:イルベサルタン 200 mg/日+アムロジピン 10 mg/日+インダパミド 1 mg/日

結果 患者背景は,平均年齢 62.6±9.4歳,男性 51.7%,BMI 26.2±4.3 kg/m2,糖尿病 75%,HbA1c 6.4±0.6%,推定糸球体ろ過量(eGFR)89.2±28.3 mL/分。

試験開始前の投薬状況は,アンジオテンシン II受容体拮抗薬(ARB)56.7%,Ca拮抗薬 48.3%,ACE阻害薬6.7%,利尿薬3.3%,α遮断薬1.7%,β遮断薬3.3%,スタチン33.3%,抗血小板薬16.7%,糖尿病治療薬33.3%であった。

追跡終了時(6ヵ月後)の降圧薬服用状況は,Step 1が 2例,Step 2は 8例,Step 3は 18例,Step 4は13例,Step 5は 18例であった。 6ヵ月後における外来血圧の目標値(130/80 mmHg未満)達成率は約50%,家庭血圧の目標値(125/75 mmHg未満)達成率は約30%。試験プロトコールに関連する有害事象は22.0%の患者で発生した。

6ヵ月後の血圧は試験開始時に比べ,外来血圧の SBPが有意に低下し,家庭血圧については早朝・夕方いずれも,SBP,DBPともに有意な低下が認められた(すべてp<0.001)。さらに24時間自由行動下血圧(ABPM)については,起床時,睡眠時,早朝,24時間の平均値のいずれもが SBP,DBPともに有意に低下した(すべて p<0.001)。

臓器障害マーカーの変化については,6ヵ月後,試験開始時に比べ,血流依存性血管拡張反応(FMD)の有意な増加(p< 0.001),および動脈硬化指数(AI),脈波伝播速度(PWV),対数変換後の尿中アルブミン /クレアチニン比(UACR)の有意な低下が認められた(UACRのみ p= 0.03,それ以外はいずれも p< 0.001)。これらの指標と家庭血圧低下度(SBP)との相関について解析した結果,PWVと UACRの低下,FMDの上昇は降圧度と有意に相関していたが,AIについては降圧度との相関が認められなかった。

発表者の江口氏は,「非常に厳格な降圧薬治療にもかかわらず,外来血圧の降圧目標達成率は 50%,家庭血圧は 30%にとどまったが,他の研究においては,家庭血圧の 125/75 mmHg未満への到達率はさらに低いため,この研究においては積極的な降圧ができているといえる。一方,血管内皮機能や動脈スティフネス,腎機能障害の指標は,降圧度に依存して有意に改善した」と糖尿病患者における厳格な降圧治療への取り組みの有用性を強調した。その一方で,めまい(7例),浮腫(4例)などの有害事象についても触れ,本試験では ACOORD BPに比べて発症が少なかったものの「日常臨床において積極的な降圧治療を行う場合には,十分な配慮が必要である」と述べた。

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