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[学会情報]日本高血圧学会(JSH)2011
編集部が選ぶ注目トライアル
CHAT-A Chikushi Anti-hypertension Trial—Avapro® ( 1 year )
日本においてもイルベサルタンは高血圧患者の腎保護に有用

松本研三氏
松本 研三氏
(福岡大学筑紫病院)

【10 月 20 日・宇都宮】

試験背景 /目的 イルベサルタンの降圧効果・腎保護作用は国内外で評価されている。米国,ヨーロッパから 2001年に報告されたIDNT( Irbesartan Diabetic Nephropathy Trial, N Engl J Med 2001; 345: 851-60),IRMA2( Irbesartan in Patients with Type 2 Diabetes and Microalbuminuria Study, N Engl J Med 2001; 345: 870-8)では,イルベサルタンの良好な腎保護作用が示されている。一方,わが国における同薬剤の発売開始は 2008年と比較的最近であることから,臨床での有用性・安全性についてのデータは十分には蓄積されていない。とくにわが国における承認用量は海外と異なることからも,日本人高血圧患者における検討が必要とされていた。福岡大学筑紫病院の松本氏らは,わが国の血圧管理不良患者を対象に,イルベサルタンの有用性・安全性を検討する多施設共同前向き研究 CHAT-Aを実施し,2011年 10月 20日に行われた第 34回日本高血圧学会総会ポスターセッションにて「血圧管理不良高血圧患者におけるイルベサルタンの有効性と安全性に関する多施設共同前向き観察試験結果」と題して,その結果を発表した。CHAT-Aの評価項目は,血圧,腎機能,安全性などである。

試験プロトコール 対象者は,通常用量以上の ARBを含む降圧薬治療中で血圧管理不良である 20歳以上の患者,および未治療の本態性高血圧患者。研究開始前の投与薬剤は原則的に継続としたが,イルベサルタン以外の ARBが投与されていた場合は,すべてイルベサルタンに切り替えた。ARBを含む合剤(利尿薬もしくは Ca拮抗薬)が投与されていた患者は除外した。

試験対象となった211例にイルベサルタン50~200mg/日を投与し,1年間追跡した。

試験結果 患者背景は,平均年齢 66.1±11.7歳,男性 46%,喫煙率 21%,飲酒率 40%,10年以上の高血圧罹病歴19%,平均 BMI24.0±3.7 kg/m2,糖尿病既往22%,慢性腎臓病(CKD)既往43%,冠動脈疾患(CVD)既往13%。

試験開始前に未治療であった症例は 47%,本試験にあたり試験前の降圧薬にイルベサルタンを追加した症例は 18%,イルベサルタンに切り替えた症例は 35%であった。なお,切り替え前の ARBの内訳は,オルメサルタン 20 mg 23%,バルサルタン 80 mg 26%,ロサルタン 50 mg 10%,カンデサルタン 4mg 22%,テルミサルタン40mg 20%。

イルベサルタン投与量は,試験開始時 76.4±26.4 mg/日,12か月後 99.3±42.4 mg/日。試験開始時の併用降圧薬は,Ca拮抗薬 44%,利尿薬 10%,ACE阻害薬 1%,α遮断薬 1%,β遮断薬 7%であり,併用薬剤数は 0.6±0.8剤であった。

有害事象は 211例中 21例に,めまい(4例)や発疹(3例)などが生じた。

血圧は追跡 1年間で有意に低下したが(イルベサルタン試験開始時 158/90 mmHg → 1年後 135/77mmHg,p< 0.0001:一元配置分散分析による群間比較,以下同じ)脈拍数の有意な変化はみられなかった。なお,血圧の推移に,糖尿病合併の有無,イルベサルタン以外の追加降,圧薬の有無,高血圧罹病期間の違い(10年未満と 10年以上),治療抵抗性の有無(イルベサルタンを含め 3剤以上と 3剤未満服用)による有意差は認められなかった。

ただし,CKD合併例と非合併例で比較すると,12か月後,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)ともに非 CKD合併例のほうが有意に低下した(12か月後までの降圧度:CKD合併例 −20/−7 mmHg,非合併例 −27/−15 mmHg)。また,75歳未満と 75歳以上で比較すると,12か月後の SBPの変化量に有意差は認められなかったが,DBPは 75歳未満群のほうが有意に低下した(12か月後までの降圧度:75歳未満−25/−14 mmHg,75歳以上−20/−7 mmHg)。

血清クレアチニン(Cr)は 12か月間ほぼ横ばいであったが,尿中微量アルブミン排泄量は試験開始時に比べ 12か月後に有意な低下を示した。

利尿薬非投与例において,Na/K比に与える影響を検討した結果,試験開始時に比べ 6か月後( p=0.017),12か月後( p=0.032)に有意に低下した。 尿酸(UA)値については,開始時(5.5±1.6mg/dL)と 12か月後(5.6±1.6mg/dL)では有意な変化はみられなかったが,開始時 UA値≧ 7 mg/dL群(35例,平均 7.95 mg/dL)では 12か月後に平均 6.73 mg/dLまで低下した。

なお,75歳未満と 75歳以上の間に,脱落率やイベント発生,有害事象発生率の有意差は認められず,75歳以上の超高齢者においてもイルベサルタンの安全性が示された。

まとめ 本研究により,イルベサルタンの優れた降圧効果とともに腎保護作用が示された。

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