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[学会情報]欧州心臓病学会(ESC)学術集会2012
(2012年8月25日~29日 in ミュンヘン)
編集部が選ぶ注目トライアル
<Hot Line I>
TRILOGY ACS TaRgeted platelet Inhibition to cLarify the Optimal strateGy to medicallY manage Acute Coronary Syndromes
PCI非施行の不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞患者では,プラスグレルの有用性はクロピドグレルを上回らず
エキスパートインタビューを読む: いま発表されている結果だけを基に判断してはならない
【8月26日・ミュンヘン】

試験背景/目的 新規のチエノピリジン系抗血小板薬であるプラスグレルは,PCI施行予定の急性冠症候群(ACS)患者を対象としたTRITON-TIMI 38試験において,クロピドグレルよりも心血管イベントを有意に抑制することが示された(両群ともアスピリンを併用)。この結果を受け,欧州では2009年2月,米国では同年7月に認可され,わが国では現在,第3相試験が進行中である。

ESC 2012のHOT Line I セッションでは,PCI実施予定のないACS患者(ST上昇を認めない場合に限る)を対象にプラスグレルのクロピドグレルに対する優越性を検討したTRILOGY ACS試験が採択され,8月26日,治験責任医師のMatthew T Roe氏(デューク臨床研究所,米国)による発表が行われた。試験結果は即日New England Journal of Medicine誌に掲載された(PubMed)。

試験プロトコール 対象は18歳以上で,PCI施行予定のない高リスクの不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞患者(診断されてから10日以内)。イベント発生後72時間以内にプラスグレル群(プラスグレル10mg*+アスピリン100mg未満)とクロピドグレル群(クロピドグレル75mg+アスピリン100mg未満)にランダムに割り付けられた。それまでクロピドグレルを服用していなかった対象者には,それぞれローディングドーズ(クロピドグレル300mg,プラスグレル30mg)を投与。

有効性の一次エンドポイントは,75歳未満の対象者における,心血管死,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中。75歳未満の対象者で有用性が認められた場合は,全対象でも解析。
安全性のエンドポイントはGUSTOまたはTIMI基準による出血。

* TRITON-TIMI38試験において,75歳以上または体重60kg未満のサブグループで出血が多かったことから,これらの患者では5mgとした。

試験結果 対象患者は52ヵ国,966施設から登録された9,326例。うち75歳未満は7,243例(77.7%)。75歳未満の対象において,非ST上昇型心筋梗塞と不安定狭心症の割合は約7:3で,高血圧は約80%,高脂血症は約60%,糖尿病は約40%。女性は約36%,追跡期間は17.1ヵ月(中央値)。

30ヵ月までの一次エンドポイント発生率はプラスグレル群13.9%,クロピドグレル群16.0%(ハザード比0.91[95%信頼区間0.79~1.05],P=0.21)となり,両群に有意差は認められなかった。心血管死,心筋梗塞,脳卒中のイベントごとに発生率をみても,いずれも有意差は認められず,75歳以上の患者を含めた全対象でも,プラスグレルの有用性は認められなかった。

大出血や生命に関わる出血に有意差は認められず,中等度~小出血を含めると出血はプラスグレル群のほうが多く発生し,TIMI基準の「大出血または小出血」では有意差がみられた(1.9% vs 1.3%,ハザード比1.54,P=0.02)。

Roe氏は75歳未満の対象者で生じた有効性のエンドポイントについて,追跡初期12ヵ月とその後を分けて解析すると,12ヵ月以降ではプラスグレル群でイベント発生率が有意に低くなったことを紹介(ハザード比0.72,95%信頼区間0.54~0.97)。さらに一次エンドポイントの「初発以外」の虚血性イベントも繰り返しカウントすると,プラスグレル群のほうが低リスクであったこと(ハザード比0.85,95%信頼区間0.72~1.00,P=0.04)にも言及し,「本試験ではプラスグレルの有効性が認められなかったが,TRITON-TIMI38試験でみられたような大出血発生率の差はみられなかったことから,さらに調査を重ねるべきと考えている」と述べた。

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