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[学会情報]欧州心臓病学会(ESC)学術集会2012
(2012年8月25日~29日 in ミュンヘン)
編集部が選ぶ注目トライアル
<Hot Line I>
Aldo-DHF Aldosterone Receptor Blockade in Diastolic Heart Failure
拡張性心不全患者においてアルドステロン拮抗薬が左室拡張能を改善(第IIb相試験)
Burkert Mathias Pieske氏
Burkert Mathias Pieske氏
【8月26日・ミュンヘン】

試験背景/目的 収縮性心不全においては,ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬などの薬剤が予後を改善させることが示されているが,拡張性心不全に対する治療法は確立していない。ACE阻害薬,ARBは大規模臨床試験においてその有用性が否定されており,β遮断薬については相反する報告がある。最近,18件の大規模臨床試験と12件の観察研究の計53,878例を対象としたメタ解析が実施されたが,いずれの薬剤も拡張性心不全に対する有効性は認められなかった(J Am Coll Cardiol. 2011; 57: 1676-86 [PubMed] )。

今回発表されたAldo-DHF試験は,拡張性心不全患者におけるアルドステロン拮抗薬の有用性を検討した第IIb相試験である。26日,Hot Line 1の最終演題としてBurkert Mathias Pieske氏(University Hospital Graz, オーストリア)より結果が発表された。

試験プロトコール 対象は心不全の兆候や症状を有し,駆出率≧50%,最大酸素摂取量(VO2max)<25mL/kg/分で,心エコーにおける拡張機能障害の所見が認められた50歳以上の男女。重篤な腎障害などの合併症を有する症例は除外(プロトコール論文:Eur J Heart Fail. 2010 ; 12: 874-82. [PubMed])。422例がスピロノラクトン25mg/日群またはプラセボ群にランダムに割付けられた。

一次エンドポイントは,12ヵ月後の運動耐容能(VO2max)および拡張機能(E/E')の変化。

試験結果 対象は平均67歳で,男女構成はほぼ均等。ベースライン時,ほとんどの対象者はNYHA II度であり,また,約9割が高血圧を罹患,腎機能は平均80mL/分/m²程度と良好であった。服薬状況は,ACE阻害薬が8割弱,β遮断薬は7割弱,β遮断薬は2割強。一方,ループ利尿薬は約15%が服用していた。

一次エンドポイントのうちE/E'は,プラセボ群で6ヵ月後に上昇し,12ヵ月後はさらに上昇したが,スピロノラクトン群では6ヵ月後には低下がみられ,6ヵ月後,12ヵ月後ともにプラセボ群との群間差は有意だった(いずれもP<0.001)。一方,VO2maxは両群とも6ヵ月後は減少し,12ヵ月後にベースライン値よりも増加。両時点ともに有意な群間差は認められなかった。
二次エンドポイントとされた左室重量係数とNT-proBNPがスピロノラクトン群で低下し,12ヵ月後の時点でいずれもプラセボ群との差は有意だった。一方,NYHA分類,QOLについてはスピロノラクトンによる改善は認められなかった。
安全性のエンドポイントについては,スピロノラクトン群で腎機能の悪化(36% vs 21%,P<0.001),貧血の新規発生/悪化(16% vs 9%,P=0.02),女性化乳房(1例 vs 9例,P=0.02),血清カリウム値>5.0mmol/Lへの増加(11% vs 21%,P=0.005)がみられた。

なお,死亡(1例 vs 0例,P=1.00)や入院率(28% vs 24%,P=0.38)に有意な群間差は認められなかった。

Pieske氏は「第IIb相試験として実施したAldo-DHF試験では,スピロノラクトンは心拡張能を改善させ,左室逆リモデリングを促進し,神経内分泌活性を抑制した。運動能や心不全の症状は改善しなかったが,重篤な有害事象をもたらすこともなかった。このことから,スピロノラクトンは拡張性心不全患者において心機能を改善し得ると考えられる」と述べた。

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