PARAMOUNT | The Prospective comparison of ARNI with ARB on Management Of heart failUre with preserved ejectioN fracTion (PARAMOUNT) Trial |
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Scott D Solomon氏 |
試験背景/目的 心不全患者の約半数は,正常かほぼ正常に近い左室駆出率(LVEF)を保持している。多くの臨床試験が収縮性心不全に対する薬物治療の有効性を明らかにする一方で,拡張性心不全に対する治療法は確立されていない。
LCZ696はネプリライシン(NEP)阻害薬とバルサルタンの機能部位をひとつの分子として合成した新規化合物である。NEPを阻害することで,ナトリウム利尿ペプチドによる血管拡張作用,利尿作用を増進させるとともに,レニン-アンジオテンシン(RA)系抑制を介した降圧と,臓器保護,血管弾性増加などプラスアルファの効果が期待されている。8月26日,Hot Line 1において左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)を対象にLCZ696の有用性を検討した第II相試験であるPARAMOUNTの結果が,筆頭著者のScott D Solomon氏(Brigham and Women's Hospital, Harvard University, 米国)より発表され,論文がLancet誌にオンライン掲載された[PubMed])。
試験プロトコール 対象は40歳以上の症候性慢性心不全患者で,LVEF≧45%,NT-proBNP≧400pg/mLの患者。2週間のrun-in期間後,LCZ696群(50mg 1日2回[BID]から開始し,1週間後に100mg BID,2週間後に200mg BIDへ漸増)またはバルサルタン群(40mg BIDから開始し,1週間後に80mg BID,2週間後に160mg BIDへ漸増)にランダム割付けされた。ACE阻害薬,ARBは併用不可。
一次エンドポイントは12週後のNT-proBNP変化。
試験結果 対象は13ヵ国から登録された308例。平均年齢は71歳で,約6割が女性,9割以上が高血圧既往(ベースライン時は136/79mmHg[中央値])だった。ベースライン時のNYHA分類はII度が約8割,III度が約2割,平均左室駆出率は58%。
ベースライン時の服薬状況はACE阻害薬が約55%,ARBが約40%で,93%が両剤のいずれかを服用していた。β遮断薬は約80%,アルドステロン拮抗薬は約20%,全例が利尿薬を服用していた。
NT-proBNPの幾何平均は,LCZ696群が783pg/mL(ベースライン)から605pg/mL(12週後)へ低下,バルサルタン群が862pg/mL(ベースライン)から835pg/mL(12週後)へ低下。その変化率はLCZ696群のほうが有意に大きかった(低下の比[LCZ696群/バルサルタン群]:0.77,95%信頼区間0.64~0.92,P=0.005)。事前に設定したいずれのサブグループでもLCZ696に優位な傾向が認められ,とくに糖尿病の患者ではLCZ696による大きな低下が認められた(P=0.02)。
なお,LCZ696群では4週後までにNT-proBNPの顕著な低下がみられ,その後36週後までほぼ横ばいで推移したのに対し,バルサルタン群では36週後までゆるやかな低下がみられた。36週後時点で両群の変化率に有意差は認められなかった。
血圧低下度は12週後,36週後のいずれもLCZ696群のほうが大きかったが,血圧低下度を調整しても,12週後のNT-proBNP変化率の群間差は有意だった(P=0.01)。
LCZ696群の忍容性は良好で,重篤な有害事象はLCZ696群15%,バルサルタン群20%と,両群に有意差は認められなかった。症候性低血圧(19% vs 18%),腎機能障害(2.0% vs 4.6%),高カリウム血症(8.1% vs 5.9%)についても有意差は認められなかった。
Solomon氏は「LCZ696は治療開始12週後に,バルサルタンよりもNT-proBNPを有意に低下させた。この低下は4週後~36週後まで一貫したものであり,重篤な有害事象や全有害事象の発生率もバルサルタンよりも少ない傾向にあった。HFpEF患者において,LCZ696は有効な薬剤であり,更なる調査ががそれを証明するだろう」との考えを述べた。