TASTE | Thrombus aspiration during ST-segment elevation myocardial infarction. A multicenter, prospective, registry based randomized clinical trial |
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Ole Fröbert氏 |
試験背景/目的 心筋梗塞の治療において,経皮的冠動脈インターベンション(PCI),すなわちバルーン血管形成術やステント留置法では,血栓自体は除去されない。血栓吸引によって血栓を除去すれば,末梢塞栓の減少や再灌流の改善が期待できるとされており,欧州心臓病学会(ESC)の推奨においても,血栓吸引はエビデンスレベルB,class IIaに分類されている。しかし,単施設で実施されたTAPAS試験では,血栓吸引は良好な転帰をもたらすということが示されているものの,スウェーデンの登録研究では,PCI施行前に血栓吸引を行った場合は死亡率が増加するという逆の結果が得られている。さらに,ハードエンドポイントを評価しうる検出力を有したランダム化比較試験はこれまでに行われていない。
TASTE試験は,ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者に対してPCI施行前に血栓吸引を行った場合と,PCIのみを施行した場合の死亡リスクについて検討した多施設共同ランダム化比較試験である。9月1日に開催されたHot Line Session Iで,Ole Fröbert氏(Orebro University Hospital,スウェーデン)より結果が発表された。試験結果は同日,New England Journal of Medicine誌のonline版に掲載された。
試験プロトコール 対象は24時間以内に発症し,心電図と冠動脈造影検査でSTEMIと診断された18歳以上の患者7244名。緊急の冠動脈バイパス術(CABG)が必要と診断された患者は除外。PCI単独群と,PCI施行前に血栓吸引(thrombus-aspiration: TA)を実施するPCI+TA群に割り付けられた。
一次エンドポイントは30日後の全死亡率,二次エンドポイントは30日後の再梗塞による再入院およびステント血栓症の発症。
試験デザインは,多施設,前向き,オープンラベルのRegistry-based Randomized Clinical Trial(RRCT)。登録研究のSCAARとSWEDEHEARTがランダム化,症例報告,追跡におけるプラットフォームとして使用された。
試験結果 心筋梗塞発症からPCI施行までの時間(中央値)はPCI群が182分,PCI+TA群が185分。心電図での診断からPCI施行までの時間(中央値)はPCI群が66分,PCI+TA群が67分であった。
一次エンドポイントである30日後の全死亡率はPCI+TA群2.8%,PCI単独群3.0%で,2群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]0.94,95%CI 0.72-1.22,P=0.63)。二次エンドポイントである30日後の再梗塞による再入院はそれぞれ0.5%,0.9%(HR 0.61,95%CI 0.34-1.07,P=0.09),ステント血栓症は0.2%,0.5%(HR 0.47,95%CI 0.20-1.02,P=0.06)であり,いずれも有意な差は認められなかった。喫煙や糖尿病などのリスク因子を有する高リスク患者のサブグループにおいても,全死亡率に有意な差は認められなかった。
以上の結果から,Fröbert氏は「STEMI患者に対するPCI施行に際し,ルーチンで血栓吸引を行うことを支持するデータは得られなかった」と結論づけた。また,今回実施されたRRCTについては「追跡中の脱落がなく,正確なデータを得ることができ,さらに低コストで試験を実施することができる有用な手法である」との見解を述べた。なお,新規の手法であるRRCTの詳細については,9月4日のClinical Trial Update Hot Line IIIにおいて発表される予定。