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[学会情報]欧州心臓病学会(ESC)学術集会2013
(2013年8月31日~9月4日 in アムステルダム)
<Hot Line IV>
AQUARIUS Aliskiren QUantitative Atherosclerosis Regression Intravascular Ultrasound Study
アリスキレンを用いた積極的降圧治療ではプラーク進展を抑制できなかった
Stephen J Nicholls氏
Stephen J Nicholls氏
【9月3日・アムステルダム】

試験背景/目的 冠動脈疾患(CAD)患者に対して,140mmHgよりも低い値を目指す積極的降圧治療の有用性を検討した試験はほとんどない。しかし,病態形成への関与が指摘されているレニン-アンジオテンシン(RA)系を抑制する薬剤を追加することによって,動脈血管壁にベネフィットをもたらす可能性がある。実際,直接的レニン阻害薬のアリスキレンはモデル動物や小規模な臨床試験(ALPINE)でプラーク進展に対し抑制的に働くことが報告されている。
そこで,血圧が「前高血圧」の範囲にあるCAD患者において,アリスキレンによるアテローム性動脈硬化への影響を評価する二重盲検,プラセボ対照,ランダム化比較試験AQUARIUSが企画された。ALPINE試験では3D-MRIでプラークを評価していたが,本試験では血管内超音波診断(IVUS)が実施された。

この結果を試験責任医師のStephen J Nicholls氏 (South Australian Health and Medical Research Institute, オーストラリア)がHot Line Session IV(心不全と急性冠症候群)にて報告し,発表当日,JAMA誌に論文が掲載された[PubMed])。

試験プロトコール 参加施設は103施設(欧州,オーストラリア,北米,南米)。対象者はCAD(血管造影上の狭窄率>20%)を有し,血圧が前高血圧の範囲(収縮期血圧[SBP] 125~139mmHg,拡張期血圧[DBP] 90mmHg未満)にあり,CAD以外に2つ以上の心血管リスクを有する613例。

登録後,全例にアリスキレン150mgを1週間投与し,忍容性を確認したうえで,アリスキレン群(300mg/日)またはプラセボ群にランダムに割付け,それぞれの試験薬を104週間投与した。プラークは血管内超音波診断(IVUS)で観察し,一次エンドポイントとして標的血管のプラーク容積率(PAV)の変化(%),二次エンドポイントとして冠動脈内の総プラーク容積(TAV)の変化(mm³)を評価した。

試験結果 平均年齢は約60歳で,男性が約3/4,白人が93%を占めた。
併用薬として,抗血小板薬およびスタチンが9割以上,β遮断薬が約8割の患者に投与されていた。そのほかACE阻害薬(約半数),Ca拮抗薬(約4割),ARB(約2割)などが併用されていた。
なお,ALTITUDE試験の結果を受けて,糖尿病患者でACE阻害薬/ARBが投与されていた91例については,途中で試験薬を中止したが,可能な限り追跡し,IVUSによる評価を実施した。

IVUSに関する解析対象者は458例(アリスキレン群 225例,プラセボ群 233例)。
試験終了時のSBP(アリスキレン群128.3mmHg vs プラセボ群130.4mmHg,P=0.007),DBP(75.3mmHg vs 76.8mmHg P=0.003)はともにアリスキレン群でプラセボ群に比し有意に低値となっていた。しかし,PAVの変化はプラセボ群で+0.11%に対して,アリスキレン群で−0.33%となり,アリスキレン群でプラークの退縮傾向がみられたものの,有意な差ではなかった(P=0.08)。同様にTAVについても,プラセボ群で−2.1mm³に対し,アリスキレン群で−4.1 mm³であったが,有意差はみられなかった(P=0.18)。

なお,探索的解析(613例)から,アリスキレンが主要心血管イベント(MACE)(アリスキレン群 26例 vs プラセボ群 50例,ハザード比0.50,95%信頼区間 0.31~0.81,P=0.004)および心筋梗塞(1例vs 8例,P=0.02)を有意に抑制していることが明らかになった。

MACEが約半数に減少したことについて,Nicholls氏は「短期間にもかかわらず,驚きである」と述べている。ただし,探索的解析であり,検出力が不足していることから,「今後の仮説提起にはなるが,結論ではない」とし,慎重な解釈を促した。

また,サブグループ解析の結果,非糖尿病患者では全体の結果と同様,アリスキレン群でプラーク退縮傾向がみられ,MACEの発生が減少していた。一方,糖尿病患者では両群はほぼ同等の結果であった。しかし,糖尿病の有無によるアリスキレンの作用の違いは統計的に有意なものではなかった(異質性P=0.55)。

有害事象による治療中止はアリスキレン群で8.2%となり,プラセボ群の4.5%と比し多くみられた。有意差がみられた有害事象は低血圧(7.2% vs 3.9%)のみ。高カリウム血症の発現率は両群で同等であり(10.7% vs 9.8%),アリスキレンの忍容性は良好であった。

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