2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長挨拶より)」が期待されている。10月25日には,九州大学のグループより,「一般住民における随時血圧,中心血圧および家庭血圧と頸動脈病変との関連——久山町研究」と題し,血圧の上昇と動脈硬化との関連について発表された。
久山町研究で行われた断面調査の成績から,健診時血圧,中心血圧,家庭血圧と頸動脈病変との関連について検討。いずれの血圧値においても,血圧の上昇が頸動脈内膜-中膜厚(IMT)の増加や頸動脈狭窄のリスクと有意に関連していることが示され,とくに家庭血圧と頸動脈病変の関連が強いことが示唆された。
【10月25日・大阪】
背景と目的
近年,随時血圧に加えて中心血圧や家庭血圧の測定も普及しつつあるが,一般住民においてそれぞれの血圧値が動脈硬化に及ぼす影響を比較した報告はあまりみられない。今回,九州大学の福原正代氏らは,福岡県久山町の住民を対象とした疫学研究の久山町研究における断面調査の成績から,健診時血圧,中心血圧,家庭血圧と頸動脈病変との関連について検討した。結果は第36回日本高血圧学会のLate-Breaking Sessionにて発表された。
福原正代氏(九州大学) |
対象と方法
〈対象〉2007~2008年の健診を受診した40歳以上の久山町住民2835名。
〈血圧〉健診時血圧は自動血圧計を用いて座位で3回測定した上腕血圧の平均を使用し,中心血圧も座位での測定値を使用した。家庭血圧については,朝3回測定し,その平均値を1日の代表値と設定。28日間の代表値の平均を使用した。『高血圧の予防,発見,診断,治療に関する米国合同委員会第7次報告(JNC7)』の血圧分類を用い,健診時血圧と中心血圧は120mmHg未満を正常血圧,120~139mmHgを前高血圧,140~159mmHgをステージ1高血圧,160mmHg以上をステージ2高血圧とし,家庭血圧は各基準から5mmHg減じた値を基準とした。解析にはいずれも収縮期血圧のみを使用した。
〈頸動脈病変〉頸動脈エコーを行い,平均IMT,最大IMT,IMT肥厚の有無,狭窄性病変の有無を評価。総頸動脈長軸像において,内頸動脈分岐部から心臓側2cmにわたる後壁IMTの平均を計測し,左右の平均値を平均IMTとした。短軸像において頸動脈の最大IMTを計測し,最大IMTが 1.0mmを超える場合をIMT肥厚とした。狭窄性病変については,短軸像においてEuropean Carotid Surgery Trial法を用いて径狭窄率を測定し,径狭窄率30%以上を狭窄性病変ありとした。性別,年齢,糖尿病,BMI,総コレステロール,HDLコレステロール,喫煙,飲酒,運動習慣,降圧薬の服用,高脂血症治療薬の服用を調整因子として多変量調整を行った。
結果
〈患者背景〉平均年齢63±12歳,男性44%,平均健診時血圧131±19/79±11mmHg,平均中心血圧133±19mmHg,平均家庭血圧132±18/78±10mmHg。
〈平均IMTと最大IMT〉健診時血圧,中心血圧,家庭血圧のいずれにおいても,正常血圧と比較して前高血圧,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧で有意に平均IMTおよび最大IMTが上昇し(P<0.05),血圧の上昇に伴って平均IMTおよび最大IMTも上昇した(傾向P<0.05)。血圧が1SD上昇した場合のIMT増加量をみると,平均IMTの増加量は健診時血圧とくらべて家庭血圧で有意に大きく(健診時血圧0.023mm vs. 家庭血圧0.044mm,P<0.05),最大IMTの増加量は健診時血圧とくらべて中心血圧で有意に小さかった(健診時血圧0.045mm vs. 中心血圧0.030mm,P<0.05)。
〈IMT肥厚〉健診時血圧,中心血圧,家庭血圧のいずれにおいても,正常血圧のオッズ比を1.0とした場合,ステージ1高血圧,ステージ2高血圧で有意にIMT肥厚のオッズ比は上昇し(P<0.05),血圧の上昇に伴ってIMT肥厚のオッズ比も上昇した(傾向P<0.05)。血圧が1SD上昇した場合のIMT肥厚のオッズ比は,健診時血圧とくらべて家庭血圧で有意に大きかった(健診時血圧1.16 vs. 家庭血圧1.34,P<0.05)。
〈狭窄性病変〉収縮期血圧が1SD上昇した場合の狭窄性病変(頸動脈狭窄)のオッズ比は,健診時血圧,中心血圧,家庭血圧のあいだで有意な差は認められなかった。
〈結論〉久山町研究における断面調査の成績からは,健診時血圧,中心血圧,家庭血圧いずれにおいても,血圧の上昇と頸動脈病変との関連が認められた。福原氏は,「健診時血圧とくらべて,中心血圧が1SD上昇した場合の最大IMT増加量が小さかった理由は明確でない」とし,家庭血圧では収縮期血圧が1SD上昇した場合の平均IMT増加量とIMT肥厚のオッズ比が健診時血圧よりも上昇していたことから,「家庭血圧と頸動脈硬化との関連がとくに強いと示唆される」と述べた。