2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長挨拶より)」が期待されている。10月25日には,あいづじげん健康ポイント倶楽部実行委員会より,「家庭血圧を含むパーソナルヘルスレコードの作成と地域作りの新しい取り組み」と題し,福島県会津美里町における,パーソナルヘルスレコード作成に向けた新たな取り組みの概要が発表された。
家庭血圧測定を含めたパーソナルヘルスレコードの作成への動機づけとして,地域での買い物ポイントを付与するシステムを構築。医療者・患者間における健康情報の共有化,地域経済への還元,災害発生時の活用など,地域社会を巻き込んだ新しい取り組みが紹介された。
【10月25日・大阪】
背景と目的
福島県は日本でもっとも急性心筋梗塞による死亡率が高い県(平成22年)であるため,住民の健康意識を高める必要がある。また,2011年3月の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故後,沿岸部から内陸部に避難している住民が多く,そのような人たちでは,原発事故以前の医療情報が不明であったり,新しいコミュニティでの関係性がまだ築かれていないことも多い。一方で,自身の健康状態を把握し,患者が医療に参加する意識を高めるツールとして,家庭血圧測定が有効であることは広く知られている。
福島医科大学の谷田部淳一氏らは,福島県内陸部の会津美里町において,家庭血圧を含むパーソナルヘルスレコードのデータ共有システムを構築。さらに,会津美里町や会津美里町商工会などとの協力により地域社会活性化にむけた運用方法を発案し,2013年8月より運用を開始した。
谷田部淳一氏(福島医科大学) |
通信機能内蔵の家庭血圧計を導入
家庭血圧測定の有用性はあきらかではあるものの,家庭血圧手帳をもちいた記録では,可読性,記録の正確さに問題があったり,集計処理がされていないなど,日常臨床で参照するためにはクリアしなければならないことも多い。谷田部氏らは,利用者に通信機能を内蔵した家庭血圧計を利用してもらい,オムロン社の運営しているMedicalLINKでデータを集約し,医療者,患者双方が整形されたデータを利用できるようにした。
血圧を測ったら商品券がもらえる
しかし,このような運動は,継続してもらうこと自体が困難であることは,過去のさまざまな事例からも示されている。そこで谷田部氏らは参加住民にこの活動を続けてもらうために,会津美里町商工会で使うことができる商品券と交換可能なポイント制度(あいづじげん健康ポイント倶楽部)を創設した。朝・晩の血圧測定を続けた場合,検査結果や処方内容を提示した場合,特定健診の事後指導を受けた場合,さらには町主催の行事に参加した場合にポイントが与えられ,商品券と交換可能となる。家庭血圧測定の継続の動機づけと地域商店街,コミュニティの活性化を結びつけた。
最終的には患者個々人の情報を集約したパーソナルヘルスレコードのデータを集中的に管理し,医療者が患者の医療情報を的確に把握できるようにする。また,開始に当たっては個人情報の取り扱いに関する包括同意も得ている。
谷田部氏は,地域住民が自分の健康を自身で管理するようになること,血圧を含む健康情報を話題とできるコミュニティを形成することなど,地域社会をプロジェクトに巻き込むことが目的であると述べた。
この取り組みは,会津美里町,会津美里町商工会,福島県立医科大学,会津大学,NPO法人福島医療・ヘルスケアICT研究会の共同事業として,2013年8月にスタート,多くの賛同者を得ており,最終的な登録目標数は500人。また,ポイントの運用資金としては,福島県の地域作り総合支援事業の補助を得ている。