2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長挨拶より)」が期待されている。10月24日には,津久井赤十字病院グループ「2型糖尿病合併高血圧患者におけるイルベサルタン切り替え時の降圧効果および腎機能・脂質・糖代謝に与える影響の検討(TSUKUI study)第2報~腎症患者におけるバルサルタンからの切り替えによる検討」と題し,イルベサルタンの有効性について検討した結果が発表された。
バルサルタンからイルベサルタンへの切り替えにより,アルブミン尿を伴う2型糖尿病合併高血圧患者の血圧は有意に低下。尿中アルブミンに有意な変化は認められず,推算糸球体濾過量(eGFR)はわずかだが有意に低下した。ただしeGFRについては多数例の検討により確認する必要がある。
【10月24日・大阪】
背景と目的
津久井赤十字病院における降圧薬の処方は,テルミサルタンとバルサルタンが多く,イルベサルタンの処方は比較的少なかった。イルベサルタンは大規模臨床試験にてその腎保護作用が認められているが,同じアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるテルミサルタンやバルサルタンからの切り替えによる有用性は明らかにされていない。TSUKUI studyではすでに,糖尿病性腎症患者を対象としたテルミサルタンからイルベサルタンへの切り替えについて検討しており,その結果,有意な降圧とともに糖・脂質代謝もわずかながら改善する傾向がみられることを発表している。そこで今回,TSUKUI studyを主導する津久井赤十字病院の伊藤俊氏は,バルサルタンからイルベサルタンへの切り替えについても同様の検討を行い,第36回高血圧学会総会のポスターセッションにて発表した。
伊藤俊氏(津久井赤十字病院) |
試験プロトコール
津久井赤十字病院に通院中で,バルサルタン投与中の2型糖尿病合併高血圧患者のうち,降圧不十分(診察室血圧130/80mmHg以上,早朝における第1回目の家庭血圧125/75mmHg以上)でかつ,微量アルブミン尿または顕性アルブミン尿を呈する患者を対象とした。対象者全員の処方をバルサルタン80mg(160mg)/日からイルベサルタン100mg(200mg)/日に変更し,変更前と3ヵ月後,6ヵ月後の血圧,腎機能などの変化を測定し有効性を評価した。以下,検査値は平均値で示す。
結果
対象は14例(男性5例,女性9例),年齢68.6±14.4歳,糖尿病罹病期間13.5±9.5年,糖尿病性腎症の病期第2期10例,第3A期0例,第3B期4例。切り替え前のHbA1c(NGSP値)7.7±2.0%,診察室血圧149.8±13.4/76.6±13.8mmHg,早朝家庭血圧141.3±5.0/61.0±14.9mmHgであり,ほぼ全例にCa拮抗薬および利尿薬が投与されていた。切り替え前のバルサルタン平均投与量は97.1±34.1mg/日,切り替え後のイルベサルタン平均投与量は121.0±42.6mg/日。
〈血圧〉診察室血圧は,切り替え前149.8±13.4/76.6±13.8mmHgから,切り替え3ヵ月後に137.1±16.5/73.6±19.6mmHg,6ヵ月後に138.9±16.4/73.6±12.8mmHgへと収縮期血圧が有意に低下した(3ヵ月後,6ヵ月後いずれもP<0.05,paired-t検定)。しかし,6ヵ月後における降圧目標達成率は28.6%であった。また,家庭血圧に有意な変化はみられなかった。
〈腎保護作用〉尿中アルブミンは,切り替え前(759.1±2179.7mg/gCr)と比較し,3ヵ月後(431.1±720.5mg/gCr),6ヵ月後(766.3±1044.4mg/gCr)に有意差は認められなかった。
一方で,eGFRは切り替え前62.1±27.7mL/分/1.73m²,3ヵ月後59.0±24.6mL/分/1.73m²,6ヵ月後57.1±26.5mL/分/1.73m²と推移し,切り替え前と6ヵ月後の差は有意であった(P<0.05)。さらに,尿素窒素(BUN)もまた,切り替え前17.9±6.3mg/dL,3ヵ月後21.0±9.9mg/dL,6ヵ月後22.0±10.0mg/dLと推移し,切り替え前と6ヵ月後に有意な差が認められた(P<0.05)。尿酸値のほか,耐糖能(HbA1c,Cペプチドインデックス,1,5-アンヒドログルシトール),脂質値(総コレステロール,LDLコレステロール,HDLコレステロール,トリグリセリド),肝機能(AST,ALT,γ-GTP),BMIや電解質に有意な変化はみられなかった。
〈結論〉アルブミン尿を呈する2型糖尿病合併高血圧患者において,バルサルタンからイルベサルタンへの切り替えは,診察室血圧を有意に低下させた。しかし,今回の検討ではアルブミン尿に有意な変化はみられず,eGFRの低下とBUNの上昇が認められた。これについて発表者の伊藤氏は,「腎機能への影響については,多数例での検証が必要であり,本研究のみで結論を導くことは難しい」としつつ,「テルミサルタンからイルベサルタンへの切り替えに関するわれわれの前回の検討でも,今回の検討と同様に有意な降圧が得られていることから,イルベサルタンが降圧効果に優れたARBであるとはいえるだろう。今回,早朝の家庭血圧には有意な低下がみられなかったが,薬剤の服用を夕食後にするなどの服薬指導を行えば(本研究の服薬は朝食後とした),早朝血圧の低下や腎保護も期待できるのではないか」と述べた。