2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長挨拶より)」が期待されている。10月26日には,岡山大学のグループより「外来高血圧患者におけるテルミサルタンからイルベサルタンへの切り替えによる臨床的効果の検討」と題し,イルベサルタンの有効性を検討した結果が発表された。
テルミサルタンを処方中の高血圧患者で,降圧不十分な症例を対象に,イルベサルタンへの切り替え投与による臨床マーカーの変化を検討。切り替え群,継続群(非切り替え)のいずれも血圧は有意に低下し,各種動脈硬化性マーカー,腎機能マーカーの変化に有意な群間差は認められなかった。
【10月26日・大阪】
背景と目的
イルベサルタン以外のアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースとした治療を受けている高血圧患者を対象に,イルベサルタンへの切り替え投与の有用性を検討したMulticenter Probe Study; Comparison of the Effects of Angiotensin II Type 1 Receptor Blockers 3(MUSCAT-3)研究では,切り替え群は継続群(非切り替え)にくらべ尿中アルブミンが有意に低下することが示された。尿中アルブミンと降圧度に関連がみられなかったことから,イルベサルタンによる尿中アルブミン低下は降圧に依存しないことが示唆された。
イルベサルタンは,動脈硬化性マーカーの改善作用,アルブミン尿抑制作用を有することが多数報告されている。一方で,同じARBであるテルミサルタンは,そのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARγ)アゴニスト作用を介した動脈硬化抑制作用が期待されている。
そこで岡山大学の花山宜久氏らは,MUSCAT-3研究のサブ解析として,テルミサルタンからイルベサルタンへの切り替えによる動脈硬化性マーカーの変動について検討。花山氏は,その結果について第36回高血圧学会総会のポスターセッションにて発表した。
花山宜久氏(岡山大学) |
試験プロトコール
MUSCAT-3研究では,ARB(イルベサルタン以外)をベースとした治療をを3ヵ月以上継続しても降圧目標に到達していない高血圧患者85例を対象とし,イルベサルタン100mg/日への切り替え群と継続群にランダムに割り付け,6ヵ月間追跡。降圧不十分な場合,Ca拮抗薬の増量あるいは新規追加を行った。本サブ解析では,切り替え前にテルミサルタン40mg/日を服用していた患者20例について検討した。
結果
対象は20例(男性6例,女性14例)で,切り替え群11例,継続群9例。平均年齢は切り替え群72歳,継続群69歳,BMIはそれぞれ23.8kg/m²,23.6 kg/m²,糖尿病合併は8例,6例,慢性腎臓病合併は6例,4例。Ca拮抗薬の増量あるいは新規追加は,20例中8例,それ以外の追加降圧薬はフロセミド1例のみ。
〈診察室血圧〉収縮期血圧については,切り替え群はベースラインの153±12mmHgから24週後には132±13mmHgへ有意に低下した(P<0.01)。拡張期血圧には有意な低下は認められなかった(76±12mmHg→72±11mmHg)。継続群においても,収縮期血圧は154±15mmHgから132±16mmHgへと有意に低下(P<0.05)。拡張期血圧に有意な低下はみられなかった(83±12mmHg→74±14mmHg)。
収縮期血圧,拡張期血圧ともに,その降圧度の有意な群間差はみられなかった。
〈動脈硬化性マーカー〉炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hs-CRP),単球走化性蛋白1(MCP-1),ペントラキシン3(PTX3)の変化について,切り替え群と継続群のあいだに有意差はみられなかった。同様に,酸化ストレスマーカーであるマロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL),尿中アルブミン/クレアチニン比のほか,推算糸球体濾過量についても検討したが,いずれも有意な群間差は示されなかった。
脂質値については,LDLコレステロールとHDLコレステロールの変化に有意な群間差は認められないものの,総コレステロールについては,切り替え群が24週後までに2mg/dL低下したのに対し,継続群では14mg/dL低下しており,群間の有意差が認められた(P<0.05)
〈結論〉テルミサルタン40mg/日を3ヵ月間服用しても降圧目標に至らなかった高血圧患者を対象とした,MUSCAT-3研究のサブ解析では,イルベサルタン100mg/日への切り替え群,継続群のいずれも血圧が有意に低下した。しかし,降圧度に群間の有意差は認められず,動脈硬化性マーカーや腎機能マーカーについても有意差はみられなかった。総コレステロールは継続群のほうが有意に低下したが,これについて花山氏は「症例数が少ないため,差があったと解釈することは難しい」と述べた。