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[学会情報]日本高血圧学会(JSH)2013
10月24日~26日
微量アルブミン尿を呈する高血圧患者に対するイルベサルタン単独療法および併用療法が腎機能,家庭血圧に及ぼす影響:多施設共同無作為比較研究
—J-HOMEアルブミン研究グループ

2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長挨拶より)」が期待されている。10月25日には,東北大学のグループより「微量アルブミン尿を呈する高血圧患者に対するイルベサルタン単独療法および併用療法が腎機能,家庭血圧に及ぼす影響:多施設共同無作為比較研究」と題し,アルブミン尿を呈する高血圧患者においてイルベサルタンの有効性を検討した結果が発表された。

〈 要 旨 〉

尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)10~299mg/gCrの高血圧患者でイルベサルタン単独で降圧不十分な場合,アムロジピンやトリクロルメチアジドを併用すると家庭血圧,ACRが低下した。従来正常範囲とされてきた10~29mg/gCrの正常高値のACRを呈する患者においても,十分な降圧によって尿中アルブミンがさらに減少することが示唆された。

◆ ◆

【10月25日・大阪】

背景と目的
近年,慢性腎臓病(CKD)は,末期腎不全や心血管疾患の危険因子として注目され,とくに尿中アルブミン陽性のCKD患者の予後は不良である。一般に,尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)30mg/gCr未満は正常とされてきたが,Chronic Kidney Disease Prognosis Consortiumの解析によると,ACRは5mg/gCrの段階から,その増加とともに全死亡および心血管死のリスクが直線的に高まることが示された(Lancet. 2010; 375: 2073-81)。このことから,10~29mg/gCrの患者はすでに病的状態に陥っていると考えられる。

CKDの進展予防においては血圧管理の重要性は高く,降圧目標値もCKD非合併患者よりも低く,家庭血圧で125/75mmHg未満と設定されている。第一選択薬であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のみの単独療法での到達は困難な場合もあり,多くの症例で併用療法が行われる。しかし,併用薬としてCa拮抗薬と利尿薬のどちらがより有用であるかは明らかにされていない。

そこでJ-HOMEアルブミン研究では,ACRの正常高値を含む10~299mg/gCrを呈する高血圧患者を対象とし,ARBイルベサルタンとアムロジピン,エホニジピンもしくはトリクロルメチアジドの併用の有用性を比較検討。その結果を,東北大学の井上隆輔氏が,第36回高血圧学会総会のLate-Breaking Sessionにて発表した。

井上隆輔氏
井上隆輔氏(東北大学)

試験プロトコール
対象者は家庭収縮期血圧135mmHg以上かつ,随時尿におけるACR10~299mg/gCrで,未治療または過去4週間以内に降圧治療を受けていない35歳以上の患者。対象者全員にイルベサルタン100mg/日を4週間投与し,降圧目標(家庭収縮期血圧125mmHg)に達しない患者は200mg/日に増量しさらに4週間投与。それでも目標未達成の患者を,トリクロルメチアジド1mg/日(朝投与),エホニジピン40mg/日(夜投与),アムロジピン5mg/日(夜投与)併用にランダムに割り付け,8週間追跡した。イルベサルタン100mg/日もしくは200mg/日で降圧目標に達した患者は,イルベサルタン単独群として観察した。試験デザインは,多施設共同,オープン,ランダム化並行群間比較試験。
一次エンドポイントは,割り付け薬の8週間の追加投与が早朝ACRの変化に及ぼす効果。

結果
対象は155例(男性42.6%),年齢61.2±11.2歳,ACRは20.6±32.8 mg/gCr,家庭血圧は155.6±14.4/89.0±12.6 mmHg。

〈家庭血圧の推移〉 イルベサルタン投与前,割り付け時,追跡終了時の推移は以下のようであった。
■トリクロルメチアジド併用群(42例):158.1±15.2*/91.2±14.2 mmHg→146.4±14.2/84.8±11.4 mmHg→133.7±14.6/78.7±9.3 mmHg
■エホニジピン併用群(40例):155.3±14.5/91.0±11.0 mmHg→148.2±13.8/86.4±9.4 mmHg→136.1±14.7/81.6±11.0 mmHg**
■アムロジピン併用群(42例):157.3±14.9*/87.2±12.9 mmHg→145.7±15.4/82.0±13.0 mmHg→131.1±12.9/75.8±10.6 mmHg
■イルベサルタン単独群(非割り付け群,31例):150.4±11.4/85.9±11.2 mmHg→136.5±16.6/80.7±9.8mmHg→131.8±11.4/78.4±9.5 mmHg
* t検定によりイルベサルタン単独群と比較した収縮期血圧P<0.05
** t検定によりアムロジピン併用群と比較した拡張期血圧P<0.05
トリクロルメチアジド併用,エホニジピン併用,アムロジピン併用のいずれの群でも家庭血圧は有意に低下した。追跡終了時の拡張期血圧は,エホニジピン併用群はアムロジピン併用群より有意に高かった。
〈ACRの推移〉 イルベサルタン投与前(早朝尿),割り付け時(早朝尿),追跡終了時(早朝尿)の推移は以下のようであった。
■トリクロルメチアジド併用群(42例):20.1±29.9mg/gCr→17.5±31.4mg/gCr→11.8±18.2mg/gCr
■エホニジピン併用群(40例):19.2±26.1mg/gCr→17.7±32.9mg/gCr→22.4±50.6mg/gCr
■アムロジピン併用群(42例):16.6±26.7mg/gCr→23.2±50.2mg/gCr→12.3±11.0 mg/gCr
■イルベサルタン単独群(非割り付け群,31例):28.6±48.6 mg/gCr→15.3±22.8 mg/gCr→15.3±26.5 mg/gCr
ACRは,トリクロルメチアジド併用群とアムロジピン併用群では低下傾向を示したのに対し,エホニジピン併用群のみ増加傾向を示した。アムロジピン併用群とエホニジピン併用群のACR変化量の差は有意であった(共分散分析,P<0.05)。
〈結論〉ACR10~29mg/gCrの正常高値の範囲から死亡リスクは増加することが知られている。そのような患者においても,イルベサルタンとアムロジピンあるいはトリクロルメチアジドの併用により,ACRが低下する傾向が本研究で示された。この結果について発表者の井上氏は,「早期の降圧治療を行うことで,正常高値のACRを呈する高血圧患者の予後を改善させる可能性がある」と述べた。また,エホニジピンが他の2剤に比べACRを低下させなかったことの理由に作用時間の短さをあげ,「エホニジピンの夜1回投与では昼間血圧がコントロールできず,ACRが低下しなかったのではないか」と考察し,ACR低下作用は降圧に依存するとの考えを示した。本研究は,今後も引き続き追跡され,1.5年後,3年後のACRおよび予後の検討が行われる予定である。

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