2013年10月24日~26日の3日間,大阪市において第36回日本高血圧学会総会が開催された。今回のテーマは「高血圧研究と診療の進歩:最先端のその先へ」とされた。高血圧における最新の研究成果や治療のエビデンスについての議論が展開されることで,「その先の研究と診療の進歩につながること(会長 挨拶より)」が期待されている。最終日の10月26日,高血圧治療ガイドライン2014(以下JSH2014)の改訂概要(案)が発表された。現行の2009年版から5年ぶりの改訂となる今回,ことに実地医家のための,よりわかりやすいガイドラインを目指して議論が重ねられたという。また,それぞれの推奨に「推奨グレード」と「エビデンスレベル」が付記されることになった。ここではおもな改訂点(案)を紹介する。
長年,血圧測定法のゴールドスタンダードは診察室血圧だったが,JSH2014では,診察室血圧と家庭血圧で診断が異なる場合,診察室血圧ではなく家庭血圧を採用した際の診断が優先される。家庭血圧は原則2回測定し,その平均値を用いる。
血圧値の分類(至適血圧~III度高血圧)について変更はないが,これまで至適血圧(<120/80mmHg),正常血圧(120~129/80~85mmHg),正常高値血圧(130~139/85~89mmHg)をまとめて「正常血圧」と総称していたが,120~129/80~85mmHgを指す正常血圧との混乱があったため「正常域血圧」に改称される。
JSH2009では若年・中年の降圧目標値は<130/85mmHgであったが,高血圧基準値(>140/90mmHg)とのあいだの場合の対応が不明瞭であったことから,<140/90mmHgに変更される。高齢者は前期と後期に分けられ,隠れた合併症の多い後期高齢者ではまず<150/90mmHgを目指し,忍容性があれば<140/90mmHgを目指すことが推奨される。後期高齢者で収縮期血圧が140~149mmHgの場合や6m歩行を完遂できない程度の虚弱高齢者については,個別の判断が必要となる。
糖尿病合併患者について,2013年に発表された「ESH/ESC高血圧管理ガイドライン」では,糖尿病患者に対する厳格な降圧を支持するエビデンスがないとして降圧目標値が<130/80mmHgから<140/85mmHgに引き上げられた。しかし,日本人に多い脳卒中については厳格な降圧の有効性が認められていることから,JSH2014では引き続き糖尿病患者の降圧目標値は<130/80mmHgとなる。
心筋梗塞後の目標値はJSH2009ではより低い<130/80mmHgに設定されていたが,心筋虚血があると血圧値と心血管イベント発生率にJカーブ現象が認められるとの報告があるため,JSH2014では心疾患合併症患者の降圧目標値を<140/90mmHgに統一し,可能であれば<130/80mmHgを目指すこととなった。
CKD合併患者については,JSH2009での降圧目標値は<130/80mmHgだったが,JSH2014では蛋白尿陰性の場合,<140/90mmHgに引き上げられる。蛋白尿陽性の場合は<130/80mmHgに据え置き。
血圧値と血圧以外のリスク要因を組み合わせたリスク層別化は,JSH2009のチャートが踏襲されたが,正常高値血圧(130~139/85~90mmHg)に関する記載は削除される。これは,病態によっては正常高値血圧がすでに降圧目標値に到達している状態になるため,治療の現場で混乱を招いていたことを受けての変更である。
JSH2014では,合併症のない高血圧患者に対する第一選択薬は利尿薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBの4種が推奨されることになる。β遮断薬は依然として主要降圧薬の一つであるが,とくに脳卒中抑制に関して他剤に劣るとの国内外のエビデンスから,合併症のない場合の第一選択薬からは除外された。ただし,狭心症,心筋梗塞後,心不全などの心疾患合併患者に対しては積極的な適応となる。
糖尿病合併患者の第一選択薬は,糖尿病性腎症の進展抑制作用が認められているACE阻害薬またはARB。腎症を発症していない患者に対する十分なエビデンスはないものの,ARBによるアルブミン尿発症抑制作用や,糖尿病新規発症抑制作用が認められていることから,腎症合併の有無によらず糖尿病患者に対する第一選択薬となった。
心筋梗塞後および収縮機能不全の標準的治療薬としては,これまでRA系阻害薬が推奨されていたが,大規模臨床試験のエビデンスや国内の他のガイドラインとの整合性をとるため第一選択薬はACE阻害薬とし,忍容性のない場合にARBを用いることになった。心房細動予防についてもこれまでRA系阻害薬が推奨されていたが,前向き大規模臨床試験による裏付けが得られなかったため削除されることとなった。
糖尿病を伴わないCKD合併患者で,蛋白尿陽性の場合は,臓器保護作用が期待されるためRA系阻害薬が推奨される。蛋白尿陰性の場合はRA系抑制薬,Ca拮抗薬,利尿薬のいずれかが第一選択薬となる。RA系阻害薬をGFR<30mL/分/1.73m²や高齢者の患者に用いる場合は,少量から使用し,急速な腎機能悪化や高カリウム血症に十分注意する。また,RA阻害薬同士の併用を行う際は極めて慎重に行う。
脳血管障害合併患者はJSH2009では一括りに扱われていたが,JSH2014では臨床病型(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)別に降圧対象,降圧目標,推奨薬が記載される。また,発症後時間について24時間以内が「超急性期」,2週間以内が「急性期」,3~4週間が「亜急性期」(新設),1ヵ月以後が「慢性期」と明確に分類された。
妊娠高血圧では≧160/110mmHgの場合に薬物治療が推奨される。妊娠20週未満の第一選択薬はメチルドパ,ヒドララジン,ラベタロール。ヒドララジンは古い薬剤であるものの,現在でも産科医が広く用いていることを考慮して第一選択薬に加えられた。主要降圧薬のほとんどが原則禁忌で,医師の判断で使用する場合はインフォームドコンセントを得て使用する。降圧薬服用時の授乳については,JSH2009では原則禁止とされていたが,JSH2014では可能と考えられる降圧薬が記載される。
本総会での発表後もガイドライン案に対するパブリックコメントが受け付けられ,さらなる討議,変更などを経て2014年4月1日に公開される予定となっている。