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[学会情報]第2回臨床高血圧フォーラム
2013年5月25,26日
シンポジウム“JSH2014ガイドライン改訂に向けて”
座長
左:島本和明氏,右:荻原俊男氏

5月26日(日)に行われた第2回臨床高血圧フォーラム・シンポジウムII「JSH2014ガイドライン改訂に向けて」(座長:荻原俊男氏,島本和明氏)では,現在,日本高血圧学会が改訂中の高血圧治療ガイドライン2014(以下JSH2014)の主要な項目について,その基本方針と作成委員会での議論の内容が紹介された。会場から寄せられた多くの意見・提案は,今後,作成委員により議論される。また,JSH2009と同様にJSH2014でもパブリックコメントを募集するとしており,それらを総合してガイドラインとしての詳細を詰めていく計画だ。

※本シンポジウムの内容はあくまでもJSH2014の作成段階での紹介です。内容は今後,変更されることも十分に考えられます。

健全な合意形成,議論の透明性の維持

島本和明氏

JSH2014の改訂作業を進めているのは,作成委員,査読委員など計155名。作成委員長の島本和明氏(札幌医科大学)によると,エビデンスに基づくガイドラインを目指すとともに,今回はより健全な合意形成(コンセンサス)を経ることを重視した。JSH2014の原案はまず執筆担当者が一人で考案し,そのうえで討議を行い,執筆担当者自身が修正を加えることが繰り返される。場合によっては多数決も取り入れるなど,権威者の意見に偏ることのないよう配慮するという。また,原案は委員全員のメーリングリストで公開,それに対する賛否・意見も同メーリングリスト上で共有するなど,議論の透明化も図る。今後は,パブリックコメントの募集も予定しており,それを考慮したうえで最終的な合意形成を目指す。

高齢者高血圧の治療
楽木宏実氏
楽木宏実氏

高齢者高血圧への降圧薬治療はおおむねJSH2009が踏襲され,降圧最終目標は140/90mmHg未満,ただし75歳以上の場合はまず150/90mmHg未満を目指す,となる予定。降圧の下限値については今回も触れない方針だ。

JSH2014では高齢者特有の合併症に関する記述が充実し,誤嚥性肺炎合併例ではACE阻害薬,骨粗鬆症合併例ではサイアザイド系利尿薬やARBについて特記される見通し。そのほかにも,高齢者では,降圧薬処方直後は処方前に比べ大腿骨骨折が43%増加するというデータをふまえ,執筆担当の楽木宏実氏(大阪大学)は骨折リスクへの対処法も言及したいと述べている。降圧薬のなかでもサイアザイド系利尿薬は骨折リスクを減少させ,ARBは骨折リスクを減少あるいはニュートラルであるとした研究もあり,高齢者高血圧での薬剤選択に影響を与えそうだ。また,6メートル歩行を完遂できないような「虚弱」高齢者に対し,降圧治療の対象をどう考えるかについても,今後,委員会で議論される。

糖尿病合併高血圧の治療
伊藤裕氏
伊藤裕氏

糖尿病合併高血圧に対する治療方針では,降圧目標が最大の焦点となっている。英国のNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)や米国糖尿病学会は,糖尿病合併高血圧の降圧目標を140/80mmHg未満に緩和しており,現在改訂中のJNC 8(JNC2013)を含め世界的に緩和傾向にある。JSH2014で本稿執筆担当の伊藤裕氏(慶應義塾大学)は,厳格降圧群(目標:収縮期血圧120mmHg未満)と標準降圧群(同140mmHg未満)の一次エンドポイント発生に有意差がなかったACCORD BP試験や,Bangalore Sらの2011年のメタ解析など,降圧目標緩和の根拠となったデータを紹介した。しかしJSH2014委員会は,糖尿病合併高血圧の降圧目標値はJSH2009と同様に130/80mmHg未満とすることで基本的に合意している。これは欧米人にくらべ日本人では脳卒中発症が多いことへの対応であり,現に前述のBangalore Sらのメタ解析でも糖尿病/耐糖能異常合併高血圧における脳卒中抑制は,収縮期血圧130mmHg未満でも到達血圧との関連が維持されている。

第一選択薬はレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬,効果不十分の場合はその増量もしくはCa拮抗薬や利尿薬の併用,それでも効果不十分であれば3剤併用と,治療計画はJSH2009を踏襲する案が示された。RA系阻害薬を第一選択薬とした根拠としては,MARVAL試験やROADMAP試験におけるARBの微量アルブミン尿抑制効果が紹介されたが,会場から,「ROADMAP試験では,ARB群はプラセボ群にくらべ微量アルブミンは確かに抑制されているが,推算糸球体ろ過量は有意に減っている。この試験を根拠にRA系阻害薬は腎症抑制効果をもつとは必ずしもいえないのではないか」(今井圓裕氏),「(今井氏の言うように)微量アルブミン尿抑制=腎症抑制とはいえないし,微量アルブミン尿抑制が心血管イベント抑制につながるというデータも存在しない。そのあたりの認識も必要なのではないか」(桑島巌氏),「IDNT試験ではARB群はCa拮抗薬群にくらべ,たしかに腎エンドポイントを有意に抑制した。しかしCa拮抗薬はプラセボ群にくらべ心筋抑制は有意に少なく,脳卒中も少ない傾向にある一方,ARB群ではプラセボ群との差がなかった。これはJSH2009の本文でも触れられているが,JSH2014ではこれを含めもう一度議論してはどうか」(菊池健次郎氏)などの意見が寄せられた。

リスクの層別化と初診時高血圧管理計画
長谷部直幸氏
長谷部直幸氏

JSH2009には,I–III度高血圧に130–139/85–89mmHgの「正常高値血圧」を加えた,脳心血管リスク層別化が記載されている。これにより正常高値血圧のリスクへの関心が高まった一方,合併症の有無によってはすでに降圧目標値以下の症例が含まれ,また,初診時の高血圧管理計画に混乱を来していることも指摘されていた。このことを受け,JSH2014の本稿執筆担当の長谷部直幸氏(旭川医科大学)は,リスク層別チャートから「正常高値血圧」を削除する方針で,正常高値血圧の糖尿病患者,メタボリックシンドローム患者,CKD患者などは,初診時管理計画を個別に提示する。これに対し会場からは,「正常高値血圧のリスクに対する軽視につながらないよう記載の工夫をお願いしたい」(菊池健次郎氏)。

なお,JSH2014では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012』で導入されている冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(NIPPON DATA 80)の導入も検討してきたが,本チャートが発症率ではなく死亡率を評価していること,冠動脈疾患に対する高血圧寄与度の問題(むしろ脳卒中のリスク評価が必要),臨床現場での使用における簡便性などを考慮し,今回は見送られた。

第一選択薬は
島田和幸氏
島田和幸氏

JSH2014における第一選択薬(JSH2009における主要降圧薬)からは,β遮断薬が除かれ,Ca拮抗薬,RA系阻害薬,利尿薬に絞られることがほぼ確定となっている。本稿の執筆を担当する島田和幸氏(新小山市民病院)は,降圧薬の疾患抑制効果の大部分がその降圧度によって説明されるという,JSH2009から続くガイドラインの基本姿勢を改めて確認。そのうえで,かねてより議論されてきたβ遮断薬と利尿薬の位置づけについて紹介した。まず利尿薬については,一部の臨床試験で糖尿病新規発症などのリスクが懸念されていたが,近年の臨床試験成績で払拭されたこと,すでに日本人の高齢者などでのエビデンスが存在すること,RA系阻害薬やCa拮抗薬への併用により優れた効果を発揮することなどが考慮され,少量の利尿薬がJSH2014では第一選択薬として推奨される予定。一方,β遮断薬については,糖尿病惹起作用,高齢者での降圧作用や脳心血管疾患抑制作用で他薬に劣るエビデンス(おもにアテノロール)があるなどを理由に,第一選択薬に含めないとした。β遮断薬が積極的に選択されるのは心合併症を有する場合などにかぎり,「降圧薬」としては,第一選択薬の併用投与後さらに追加する場合に用いる薬剤と位置づけた。島田氏は,「現在はそのような処方が一般的となっており,実際の臨床現場への影響は少ない」と述べている。

ガイドラインにおける医療経済
齊藤郁夫氏
齊藤郁夫氏

昨今の高齢化やわが国の債務残高の急激な上昇を背景に,ガイドラインに医療経済的観点を盛り込むことは急務となっている。JSH2014では医療経済についてJSH2009よりもやや踏み込んだ内容にすることを目指しているが,ここでは具体的な内容はほとんど明かされなかった。本項目を担当する齊藤郁夫氏(慶應義塾大学)は,実地診療では治療効果に加え,個人的・社会的な経済的負担を,短期・長期で考慮していくことが望ましいと話し,各国ガイドラインにおける医療経済への対応を紹介した。とくに家庭血圧測定や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の費用対効果が優れていると話す。JSH2014ではLIFE試験やALLHAT試験の医療経済分析や,日本人を対象とした予後予測モデル(マルコフモデル)の検討にASCOT-BPLA試験を加えた分析結果について触れられる予定。

血圧の測定,とくに家庭血圧測定について
今井潤氏
今井潤氏

本項目を担当する今井潤氏(東北大学)は,作成委員会の意向として,家庭血圧の測定回数がJSH2009の「1機会1回以上」からJSH2014では「1機会原則2回でその平均値を用い,1回だけの場合は1回のみの値を採用する」と変更される予定であると述べた。また,診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合,家庭血圧による診断を優先するなど,位置づけの優先順位が明確化される。その他に,高血圧診断手順の原案として紹介されたフローでは,診察室血圧測定の次に家庭血圧を測定し(必要に応じてABPMを実施),高血圧,白衣高血圧,仮面高血圧の診断を行うとされ,今井氏は,家庭血圧計が広く普及した日本で実効可能性の高いフローであると話す。家庭血圧での降圧目標はJSH2009がほぼ踏襲される予定。


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