2型糖尿病合併高血圧患者を対象に,イルベサルタンの12か月投与を行ったところ,診察室血圧,家庭血圧,HOMA-R,尿中アルブミンの改善がみられ,尿酸代謝には影響を及ぼさなかった。
【5月26日・東京】
背景と目的
イルベサルタンは,国内で6番目に発売されたアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)である。ARBは予後改善に有効であることが示されているが,この薬剤を2型糖尿病患者で検討した臨床研究は多くない。一方で,イルベサルタンはランダム化比較試験であるIDNT(Irbesartan Diabetic Nephropathy Trial)やIRMA2(Irbesartan in Patients with Type 2 Diabetes and Microalbuminuria Study)において,降圧作用以外に優れた腎保護作用を示したはじめてのARBでもある。また最近,ARBの尿酸代謝に対する影響が報告されている。尿酸代謝を改善する作用が一部のARBで報告されるようになった。埼玉医科大学の野口雄一氏らは,2型糖尿病患者を対象に,降圧効果不十分例に対して,イルベサルタンを投与し,その降圧効果,腎機能や尿酸代謝,インスリン抵抗性に与える影響に関して検討を行った結果を第2回臨床高血圧フォーラムのポスターセッションにて発表した。
野口雄一氏(埼玉医科大学) |
試験プロトコール
対象は2型糖尿病患者で収縮期血圧130 mmHgもしくは拡張期血圧80 mmHg以上の24症例。イルベサルタンを12か月投与して診察室血圧,家庭血圧,腎機能,尿酸値,インスリン抵抗性,各種臨床検査値の変化について検討を行った。
結果
対象24例の平均年齢は63.2歳,男性12例,降圧薬新規服用は7例,降圧薬切替は6例,追加投与は11例。イルベサルタンの投与量は,50mg/日が2例,100mg/日が21例,200mg/日が1例(平均投与量100mg/日)。HbA1c,空腹時血糖値,HDLコレステロール,中性脂肪,総コレステロール,eGFRなどの臨床検査値は開始前と12か月後で有意な変化はみられなかったが,LDLコレステロールは112mg/dLから97mg/dLへと有意な低下を示した(P=0.037,paired t検定)。
〈血圧〉 診察室血圧でみると,収縮期血圧(SBP)はイルベサルタン投与開始時の平均151±19.3 mmHgから12か月後133±18.5 mmHgに,拡張期血圧(DBP)は85±13.8 mmHgから77±16.2 mmHgにで有意に低下した(SBP:P=0.00001,DBP: P=0.002,paired t検定)。診察室血圧の血圧分類の変化をみると,投与開始時,正常高値血圧以上が21例,正常血圧以下が3例であったが,12か月は正常高値血圧以上は15例,正常血圧以下は9例となった。投与開始時と12か月後に,連続7日間の起床時家庭血圧を計測した5例でみると,家庭血圧の平均SBPは136 mmHgから119 mmHgへ,平均DBPは82 mmHgから73 mmHgへと変化した。
〈HOMA-R,尿中アルブミン〉 また,インスリン抵抗性の指標の一つであるHOMA-Rを開始時と12か月に計測した12例でみると,開始時の6±6.2から,4±3.9へと有意な低下を示し(P=0.05,paired t検定),また尿中アルブミンを計測した11例では,アルブミン排泄量は50mg/gCrから27mg/gCrへと低下する傾向がみられた(P=0.075,paired t検定)。
〈尿酸〉 尿酸値に関しては,投与開始時と12か月後で変化はなかった(4.9±1.3mg/dL vs. 4.9±1.2 mg/dL,P=0.379,paired t検定)。
〈結論〉 降圧が不十分な2型糖尿病患者において,イルベサルタンへの切り替えあるいはイルベサルタンの追加投与は診察室血圧を有意に低下させ,家庭血圧についても降圧がみられることが示された。インスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rにも改善がみられたが,野口氏はこれを,この薬剤が有する選択的PPARγ活性化作用によるものである可能性があり,メタボリックシンドロームに有効なARBと考えられるとした。さらに尿中アルブミンの低下作用がみられたこと,尿酸値に影響を及ぼさなかったことから,腎機能保護作用を目指しつつ安全に用いることができる薬剤であると述べた。