第2回臨床高血圧フォーラム(会長:伊藤裕氏・慶應義塾大学)が2013年5月25日,26日に東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスで開催された。今回の臨床高血圧フォーラムは,臨床医家,臨床高血圧医療に関わるすべての医療従事者,なによりも高血圧を患う市民へ,広く高血圧に関するメッセージを発信し,「明日の臨床高血圧の進路をともに見つけ(会長挨拶より)」ることを目指して,「臨床高血圧ノススメ」を学会テーマとしている。5月25日には,済生会新潟第二病院のグループより「2型糖尿病合併高血圧患者におけるイルベサルタン新規投与による降圧と尿中アルブミン改善効果の検討」と題して,2型糖尿病合併高血圧患者におけるイルベサルタンの有効性を検討した結果が発表された。
2型糖尿病合併の未治療高血圧患者を対象として,イルベサルタン100mg/日の新規投与の有効性を検討した。その結果,収縮期血圧,拡張期血圧を有意に低下させ130/80mmHgの降圧目標に4割以上が到達した。また尿中アルブミンの改善作用がみられた。
【5月25日・東京】
背景と目的
糖尿病患者は,非糖尿病患者に比し心血管系疾患の発症率は2–4倍高く,さらに高血圧が合併すると,心血管系疾患の発症率はその2–3倍高くなることが知られている。また,糖尿病に高血圧が合併すると,糖尿病腎症の進行を促進する。このように,高血圧合併糖尿病患者は,きわめて高リスクであり,『高血圧治療ガイドライン2009』では,糖尿病合併例は高リスク群に分類され,降圧目標は130/80mmHg未満,降圧薬はこれまでの臨床試験からレニン・アンジオテンシン系阻害薬が第一選択薬として推奨されている。済生会新潟第二病院の鈴木克典氏らは,日本人の2型糖尿病合併高血圧患者における,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)イルベサルタンの新規投与による降圧効果と尿中アルブミン改善作用を検討した結果を第2回臨床高血圧フォーラムのポスターセッションにて発表した。イルベサルタンはこれまでにIDNT,IRMA 2などにおいて腎保護作用が示されているARBである。
鈴木克典氏(済生会新潟第二病院) |
試験プロトコール
対象は済生会新潟第二病院に通院中の,2型糖尿病を合併する診察室血圧が130/80mmHg以上の降圧薬未治療の高血圧患者。糖尿病治療を3か月以上うけており,HbA1cの安定している症例を対象とし,イルベサルタン100mgを新規に投与し,投与前,投与後の血圧,尿中アルブミン量を検討した。
結果
〈患者背景〉 対象症例数は61例。開始時の患者背景は,平均年齢58.9±10.9歳,男性40例,糖尿病罹病期間9.4±6.3年,体重67.1±13.4 kg,BMI 25.0±4.5kg/m²,収縮期血圧(SBP)154.5±16.4 mmHg,拡張期血圧(DBP)92.0±12.9 mmHg,HbA1c 6.9±1.2%,尿中アルブミン60.1±69.1mg/gCrであった。
開始時と24週後では,体重,BMI,HbA1cに有意な変化はみられなかった(対応のあるt検定)。
〈血圧〉 血圧はSBPが154.5±16.4 mmHgから127.2±10.1 mmHgへ,DBPも92.0±12.9 mmHgから75.7±11.4 mmHgへといずれも有意に低下した(SBP,DBPともP<0.01,対応のある t検定)。降圧目標(130/80 mmHg未満)達成率は,12週後で26.7%,24週後で41.0%であった。
〈尿中アルブミン〉 開始時の尿検査は56例で行われ,正常アルブミン尿は24例,微量アルブミン尿は26例,顕性アルブミン尿は6例であった。正常アルブミン尿と微量アルブミン尿の計50症例の平均尿中アルブミンは,開始時60.2mg/gCrから24週後に25.5mg/gCrへと有意な減少を示した(P=0.000, Wilcoxon符号付順位和検定)。その尿中アルブミン低下率は58%であった。微量アルブミン尿の26症例だけでみても106.5mg/gCrから35.4mg/gCrへと有意な減少を示した(P=0.000, Wilcoxon符号付順位和検定)。その尿中アルブミン低下率は67%であった。試験開始前,微量アルブミン尿を有した26症例のうち15例(57.7%)が正常アルブミン尿に改善し,顕性アルブミン尿の6例中,正常アルブミン尿,微量アルブミン尿にそれぞれ1例,改善していた。正常アルブミン尿24例中3例が微量アルブミン尿に進展していた。
〈結論〉 2型糖尿病合併高血圧患者において,イルベサルタンの常用量である100mg/日の新規投与により,24週時においてSBP,DBPをともに有意に低下させた。さらに尿中アルブミンについても有意な改善を示し,微量アルブミン尿から正常アルブミン尿への寛解も半数以上で認められた。鈴木氏は,イルベサルタンの日本の常用量は欧米の常用量150mgよりも低用量であるが,この研究から日本の常用量100mg/日で良好な治療成績が得られることが示され,有効性,安全性が示されたと述べた。