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[学会情報]欧州心臓病学会(ESC)学術集会2014
(2014年8月30日~9月3日 in バルセロナ)
<Hot Line I>
NECTAR HF NEural Cardiac TherApy foR Heart Failure Trial
迷走神経刺激による心不全患者の臨床的ベネフィットは認められず
【8月30日・バルセロナ】

慢性心不全では交感神経が過活動状態にあり,迷走神経が抑制されている。心不全モデル動物を用いた実験では迷走神経刺激により予後が改善することが知られており,左室収縮不全患者32例を対象とした非無作為化観察研究でも,迷走神経刺激による生活の質(QOL),運動能,左室リモデリングの改善作用が報告されていた。
今回のNECTAR HF試験では,24施設の心不全患者96例を対象に,植込み型デバイスにより6ヵ月にわたり右側迷走神経を刺激し,安全性と有効性が評価されたが,心機能の改善作用は認められなかった。治験責任者のFaiez Zannad氏(l'Institut Lorrain du Coeur et des Vaisseaux Louis Mathieu, in Vandoeuvre-lès-Nancy, フランス)がHot Line Iで発表し,同日,Eur Heart J誌に掲載された。

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対象者は全例とも至適薬物療法に加えて迷走神経刺激デバイスを首に植え込み,それを胸部皮膚下に植え込んだパルス発生器と接続。その後,スイッチオフ群と振幅1.24mAで刺激を開始し3ヵ月後1.42mAにする迷走神経刺激(スイッチオン)群とに無作為割り付けされた。

6ヵ月後,一次エンドポイントである左室収縮末期径(LVESD),二次エンドポイントである心エコー検査による評価項目,運動能,N末端pro脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)は両群同等の変化であった。「前臨床データは手堅いほどに迷走神経刺激の有用性を示していたのだが,今回のプロトコルでは証明することができなかった」とZannad氏は述べた。

このネガティブな結果に対するZannad氏の考察は以下のとおりである。一つは,より適切な迷走神経刺激方法について検討する必要があるということ。てんかん患者に対する迷走神経刺激では高振幅がより効果的であることが示されているが,患者には不快であるためしばしば実施不可能なことがある。二つめは,本試験の対象患者は至適薬物治療のみで良好に管理されており,迷走神経刺激によって大きな便益を受け得る対象ではなかった可能性があること。三つめは,6ヵ月という試験期間が心機能の変化を検出するには短すぎた可能性である。

自覚症状に関するQOL(MLHFQ,SF-36,NYHA心機能分類)は迷走神経刺激群で有意な改善が認められた。しかし,本試験は二重盲検であるものの,迷走神経刺激群では感覚として「刺激」を受けることが可能であった。すなわち,患者は自身が介入治療を受けていることを知っていたことになる。これらの理由から,QOLスコアに対する解釈には注意が必要であるとZannad氏は述べた。

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