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[学会情報]日本循環器学会(JCS)2014
CABG vs PCI– SYNTAX 5年の成績を受けて
2014年3月21日~23日の3日間,東京において第78回日本循環器学会学術集会が開催された。例年に続き,今年も冠動脈バイパス術(CABG)と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応についてのセッションが開かれた。今回は「SYNTAX試験の5年成績を受けて」をテーマに内科と外科から演者が登壇(座長:吉野秀朗氏[杏林大学第二内科],坂田隆造氏[京都大学医学部附属病院心臓血管外科])。ここではそのうち3名の発表概要を紹介する。
治療法決定の際は,ハートチームによる十分な検討が重要

内科の桃原哲也氏(榊原記念病院循環器内科)は,まず左主幹部病変(LMT)の部位別割合について榊原記念病院のデータを提示した。内訳はAorta-ostial(入り口部)が15%,Bifurcation(分岐部)が61%,Central(中央部)が16%,Diffuse(広範性)が7%。内科医が通常,PCI施行を検討するAorta-ostialとCentralは合わせても30%程度であった。そして同院の治療法決定スタンスについて,2症例を提示して説明した。

【症例1】72歳男性,狭心症,LMT Aorta-ostial,75%狭窄,高血圧(+),SYNTAX Score 16

——本症例ではPCI,CABGのいずれも選択可能と考えられたが,ハートチーム(循環器内科,心臓血管外科,麻酔科,コメディカルスタッフ)で話し合った結果,Xienceが留置された。現在まで3年以上,イベントなく経過している。

【症例2】62歳男性,狭心症,LMT Central, 右冠動脈にも狭窄あり,高血圧(+),脂質異常症(+),SYNTAX Score 19

-——SYNTAX Scoreは症例1と同程度に低く,こちらもPCI,CABGのいずれも選択可能と考えられたが,ハートチームで話し合った結果,右冠動脈にも狭窄があること,62歳と若いことを考慮してCABG(LITA-LAD,free RITA-PL,AVG-#4PD)が施行された。

非保護の左冠動脈主幹−左前下行枝に対してPCIを選択する場合,同院では1)左冠動脈回旋枝の入口部に病変を認めないこと,2)1ステントで治療可能なこと,3)ハートチームで再血行再建術の術式を検討することを条件としている。左主幹部病変といっても,ostial/shaft(幹)なのか(→成績良好),遠位分岐部なのか(→標的病変再血行再建術の施行率が高い),また合併症によっても成績はまったく違うことが報告されている。桃原氏は「非保護の主幹部病変に対する第一選択がCABGであることに異論はないが,ハートチームで慎重に検討された症例においては,PCIでもCABGと同等の治療成績が期待できる。第二世代のDESを用いた場合の治療成績は良好であり,分岐部を除く非保護の主幹部病変に対して,症例ごとにチームで十分に議論して治療方針を決めることが重要」と述べた。

第二世代のDESでも,標的病変再血行再建術に至るリスクは第一世代とかわらず。内科医の対応により死亡リスクが回避されていると考えられる

小宮達彦氏(倉敷中央病院心臓血管外科)は,同院のPCI/CABG施行データを提示,外科の立場から両治療法について考えを述べた。2004年以降,PCIの普及によりCABG施行数が減少していたが,日本循環器学会および欧州(ESC),米国(ACCF/AHA)のガイドライン発表後,2012年から再びCABGが増加したという。術後の追跡結果をみると,心筋梗塞,脳卒中発生率にはほとんど群間差がみられなかったが,全死亡,心臓死,標的病変再血行再建術,主要有害脳心イベントはCABGのほうが有意に少なかった。また,ESCガイドラインでPCIが推奨クラスIIbやIIIに該当する症例では,全死亡,心臓死には有意差がなかったが,主要有害脳心イベントはCABGのほうが有意に少なかった。SYNTAX Scoreが中~高スコアの患者でも,主要有害脳心イベントはCABGのほうが有意に少なかった。

第二世代のDESが登場すると,高リスク症例にもPCIが施行される頻度が増加し,標的病変再血行再建術に至るリスクは第一世代から大きな改善はみられていないにもかかわらず,全死亡,心臓死はCABGと同等になってきた。小宮氏は「内科医が再狭窄にうまく対処して,死亡に至るのを防いでいるのだろう」と述べ,「デバイスの改良によってPCIの臨床成績が改善しているが,左主幹部に対する第一選択は依然としてCABGであり,患者ごとに適応をよく考えることが重要である」とまとめた。

CREDO-Kyoto Registry のデータを基にしたリスクモデル「Kyoto SCORE」

SYNTAX試験はCABGとPCIの成績を比較したランドマーク的エビデンスとして知られているが,RCT arm以外にRegistry armがあることはあまり知られていない。同試験では連続患者3,000例超が対象となり,そのうち35%は医師判断によりランダム化されずにCABGに割り付けられている。このCABG Registry群の患者背景は,CABG RCT群よりもSYNTAXスコアが高く(38 vs 29),複雑病変が多かった。予後は非常に良好である。一方,CABGに耐えられないとの判断から6.4%がPCIに割り付けられているが,こちらは重症であるため術後の予後も不良である。丸井晃氏(京都大学心臓血管外科)は「このような実臨床の患者背景を踏まえたCABG,PCIの成績についても十分に理解する必要がある」と述べた。

丸井氏は続いてわが国の登録研究CREDO-kyoto Registry Cohort-2におけるCABGとPCIの成績を紹介。同コホートの3枝病変患者ではCABG群のほうが合併症が多いなど高リスク患者が多く,治療病変数もCABG群のほうが多かった(3.44 vs 2.05)。調整前後ともに全死亡/心筋梗塞/脳卒中の複合,全死亡,心筋梗塞はCABG群のほうが少なく,心臓死,脳卒中に群間差はみられなかった。脳卒中はCABGの弱点とされてきたが,CREDO-kyoto RegistryではPCIと遜色ない長期成績だったことになる。再血行再建術はPCI群でCABG群の4倍発生していた。非保護左主幹部病変では,再血行再建術はCABG群のほうが有意に少なかったが,脳卒中/心筋梗塞/全死亡の複合,全死亡,脳卒中,心筋梗塞は調整後有意差はみられなかった。PCI群ではSYNTAX Scoreが上昇すると予後が悪化したが,CABGではSYNTAX Scoreによらず予後は同様の経過をたどった。

今後はこれまで得られた知見を基に,患者ごとにPCIとCABGのどちらが適切か判断していく必要がある。euro SCOREやSYNTAX Scoreなど外科手術向けのリスクスコア,冠動脈のみをターゲットとしたリスクスコアはあるが,それぞれ欠点もある。そこで丸井氏らは田中司朗氏(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野臨床研究管理学分野)の協力のもとCREDO-Kyoto Registryコホート1のデータを用いたリスクモデルアプリケーションを作成しており,現在,初回冠血行再建後長期予後に関するリスクモデルKyoto modelがウェブ公開されている。年齢やBMI,左室駆出率を入力し合併症有無を選択すると,PCI,CABGそれぞれの術後生存率と,再血行再建術施行率が表示される仕組みになっており,今後DES治療後のデータも含めたリスクスコアとして構築されれば,より具体的にリスクを数値で検討することが可能になると期待されている。

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