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[学会情報]日本高血圧学会(JSH)2014
(2014年10月17~19日)
尾前照雄氏 高血圧学会設立と久山町研究を振り返る

第37回日本高血圧学会総会(2014年10月17~19日,横浜)において,尾前照雄氏(久山町ヘルスC&Cセンター長/国立循環器病研究センター名誉総長/公益社団法人久山生活習慣病研究所会長)より,「日本高血圧学会発足と久山町研究50年」と題する講演が行われたので,その概要を紹介する。

日本高血圧学会設立の気運 
~米国Cleveland Clinic 留学中(1957~61年)の刺激~
尾前照雄氏
photo:尾前照雄氏

「このままではいけない,生まれ変わるような気持ちで仕事をしなければ」と教えられたのは,私たちが米国Cleveland Clinic 留学中のことであった。高血圧研究の世界的リーダーDr. Page,Dr. Goldblattの存在や,研究者のための討議を尽くしたカンファレンスの刺激は大きく,日本でも新しい空気が生み出されるような,若い研究者の育成に繋がるような高血圧学会ができればよいという希望をもったのである。帰国して約20年後の1978年,循環器学会と腎臓学会から独立する形で,日本高血圧学会が誕生した。

学会の演題採択の条件は,オリジナルな研究であることを厳密に審査した。オリジナルな仕事を重視し「シンポジウムは行わない」,理事長に左右されることのないように「当分は理事長を置かない」こととし,また評議員は肩書きではなく,高血圧に関するよい原著論文を発表した人,質の高い仕事をした人とした。高血圧のテーマは範囲が広いため,会場を分けずに一会場で十分討議を尽くすこととした。これは国際高血圧学会の精神に準じたものである。演題採択率は約1/3と低く,若い研究者にとっては,採択されること自体が自信を得るものであったようだ。

久山町研究のはじまり

当時,日本の脳出血死亡率が極端に高いことが,世界の専門家の間で問題になった。この問題に取り組むために始めたのが,久山町研究である。当時は脳出血急性期の患者を動かすことは禁忌とされていたので,脳出血患者が大学病院まで運ばれることはほとんどなかった。そこで,九大研究室は久山町を選んで検診に行き,亡くなられた方の剖検を依頼するため全力をつくして努力した。CTが診断に応用される10年も前のこと,剖検しない限りは病型を確定できなかったからである。現在まで50年以上続く研究は,研究者,行政,医療機関,そして住民との深い信頼関係に支えられた。初期には脳卒中に関する日米共同研究を支えてくれた米国NIHの研究費,その後は町と国からの公的財政支援がこれを可能とした。

小早川町長らの功績

久山町初代町長江口浩平氏も住民の健康に関心が深かったが,二代目の町長小早川新氏の尽力を忘れることはできないという。田中角栄氏が日本列島改造論を出した経済成長の時代,小早川氏はこの政策には反対であった。ひと儲けしようという企業は一切受け付けなかった。久山の土地の96%は町が管理したため,土地の所有者は役場の許可なしでは土地を売ることができず,企業も入ってこれなかった。米国NIHによる研究費が7年間でストップされたとき,継続の危機を乗り越えられたのは,町長が「検診費用は町が出すから研究を続けて欲しい。健康な町づくりに邁進しましょう」と,言ってきてくれたことにあった。その小早川氏は7期28年,町長職を務めた。

患者と同じ視線に ~久山町の教訓1~

尾前氏は,「すべては信頼関係にある。臨床医学では,医者と患者が協力しあうことが医学の原点である」という。久山町研究では,患者(住民)は共同研究者である。町民が九大の研究に参加し,医学に貢献しているという意識がある。また,検診を受けることで健康が守られるという前向きな意識もある。九大研究室では,昼夜を問わず検診者のフォローを行い,久山町当番の医師は,1週間に8回も町に往診に行くこともあった。共同研究者になってもらうには,研究参加によるメリットを考えて,互いに敬意をもって仕事を続けねばならない。

臨床医学の課題 ~久山町の教訓2~

最近,高血圧治療研究で,国際誌の原著を取り消すという残念なことがおきた。日本の臨床医学の信頼性が薄れてきているのではないか。日本では,医者と患者の信頼関係が未だ十分でないことに加えて,それを行うための研究システムが確立されていない。国をはじめとする公的な研究資金による支援が望まれる。製薬会社まかせの研究では目的を達し難い。医師主導型,研究者主導型研究が行われ難い現状の改善は,日本の臨床医学の大きな課題である。

「久山町研究は,『天の時,地の利,人の和』が実現して50年以上継続されてきたと感じている。高血圧学会が,これからの日本の臨床医学に大きく貢献するという目標をもって発展することを切に願ってやまない」と結んだ。

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