製薬・医療機器企業から医師への情報提供の役割は,現在おもに医薬情報担当者(MR)が担っているが,近年,エビデンス構築や高度な医学・科学情報提供を行う職種としてメディカルサイエンスリエゾン(MSL。サイエンスリエゾン,メディカルリエゾンなど各社により呼称は異なる)が注目されている。営業系からは独立した職種で,欧米ではすでに確立しており,国内でも外資系企業で先行していたが,専門情報の高度化や臨床研究支援に関する利益相反問題表面化の流れを受けて,最近は内資系企業も導入を進めている。
日本製薬医学会のMedical Affairs部会は,企業のMSL認定制度を第三者機関として認証する活動を2014年11月に開始した。その活動概要や,製薬企業を対象としたMSLに関するアンケート調査結果について,7月25日,日本製薬医学会第6回年次大会セッション4「MSLの現状と今後」で発表された(編集部)。
(Therapeutic Research 2015年8月号掲載)
岩本和也氏(日本製薬医学会MA部会,6月より同学会理事長)は,まずメディカルサイエンスリエゾン(MSL)について「製薬企業などにおいて,販売促進を目的とせずに,社内外において医学的・科学的な面から製品の適正使用の推進や製品価値の至適化などを支援する職種で,疾患分野に対する高度な専門性と学術知識をもつ者をいう。オピニオンリーダーの医師や医学研究者を訪問したり学会活動を行うなかで,医学・科学情報の伝達および入手を行う」と紹介。MRの情報提供活動の目的のひとつが自社製品の普及であるのに対し,MSLのコミュニケーションは医学的・科学的な面からの情報の伝達と入手を目的としており,処方量/市場シェアと個々人の報酬がリンクしない(表「MRとMSLのおもな違い」)。
医薬情報担当者(MR)には公益財団法人MR認定センターによる認定制度があり,受験者個人が認定されるが,MSLについて企業横断的に個人を認定する法人は存在しない。「そこで日本製薬医学会は,MSLの質・公益性を担保するため,認証事業を開始した」と岩本氏はいう。ただし,認証するのは個人ではなく「企業のMSL認定制度」だ。
認証基準は「販促活動からの独立性(法令遵守体制)」「医学・科学性」「教育体制」に関する評価から構成されている(認証基準の詳細はこちら)。MSLだから可能となる未承認製品に関する情報提供がプロモーションにつながることがないよう,まずはコンプライアンス体制を重視しているという。そしてオピニオンリーダーの医師と対等なコミュニケーションが可能な医学・科学的専門性,そして,関連製品および製品関連疾患領域やレギュレーションなどに対する知識や各種のスキルに関しての教育体制をみるという。
社内で当初設定した体制と実際の企業活動が一致しない可能性や,企業統治変化の可能性を考え,初回認証の2年後に中間モニタリング審査も実施される。問題なければさらに2年継続認証され,初回認証日の4年後には認証更新審査が必要となる(審査料は初回審査が260万円,モニタリング審査が150万円,認証更新審査が170万円)。
認証事業発足のきっかけはアストラゼネカ株式会社からの評価の依頼で,2015年5月31日,同事業初の認証を同社に対して発行している。
MR | MSL | |
役割 |
|
|
対象とする製品 |
|
左記に加え
|
コミュニケーションの範囲と種類 |
|
左記に加え
|
コミュニケーションの目的 |
|
|
研究活動等への関与 | 市販後調査以外の研究,開発中の製品には関与しない | 医学研究活動,アドバイザリーボード,社内研修,外部教育などをサポート |
処方量/市場シェアと個々人の報酬 | リンクする | リンクしない |
日本製薬医学会ではMSLの現状と将来動向について明らかにするため,2011年から国内製薬企業にアンケート調査を実施している。岩崎幸司氏(日本製薬医学会MA部会)は2015年2~3月の調査結果の一部を紹介した(回答社数24[外資系企業14社,内資系企業10社])。この調査におけるMSLの定義は,呼称を問わず「高度な医学科学知識を有し,その知識を基に医学科学情報の交換,研究者主導研究への対応,キーオピニオンリーダー(KOL)マネジメント,およびパブリケーションなどの業務に従事するスタッフのこと」としている。
MSLの在籍者数は平均24名(範囲0~54)で,過去のアンケート調査時(2011年:11名,2013年:22名)にくらべて増加傾向にあった。全MR数に占めるMSLの割合は平均2.2%(範囲0~11.7)。保有する医療系資格については薬剤師が圧倒的に多く,医師免許保有者は少なかった。MSLの活動開始時期については,半数弱の企業が2~5年前からと回答。外資系企業に限定すると,2年以上前から活動していた企業が80%以上だった。MSLの所属部門は約60%がメディカルアフェアーズ部門で,開発部門という企業も20%ほどあった。
MSLの役割,責任範囲として,半数以上の企業が「KOLマネジメント」「KOLからの情報入手」「外部顧客に対する医学・学術情報の提供,未承認薬および承認薬の適応外使用に関する情報提供」「医師自主研究に対する会社の窓口,コンサルト,アドバイス」「最新医学情報の収集と社内関連部署への提供」「患者のアンメットニーズの収集・解釈」を,MSLが主導的に実施していると回答した。MRに同行した重要顧客の訪問や販促資材・ツール作成に関わる頻度は少ないようだ。米国のMSLの多くは自社主催講演会の演者スライドを作成したりMRの研修に関わったりしているが,これらについても日本ではあまり関わっていないようである。
MSLの業務評価指標については内資系・外資系ともに半数以上が「KOLへの訪問回数」を採用していた。外資系企業はほかに「KOLからの情報入手」「スピーカー育成の成果」を,内資系企業は「臨床研究支援数」「論文投稿数」を多くの企業が採用していた。今後のMSLの採用方針としては,内資系企業の半数以上は薬剤師や医学博士,外資系企業の半数以上は薬学博士や医師免許をもつMSLの増員を予定していると回答した。
実際にMSLの社内認定制度を設けている会社は内資系・外資系ともにまだまだ少ないが,日本製薬医学会の認定制度認証に対して20社が興味があると回答。12社は近い将来,6社は将来的には受けたいと回答した。