日本人一般住民のための心房細動リスクスコア |
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11月12日〜16日,ニューオーリンズ(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。
ここでは,今回のAHAで採択された日本の疫学コホート研究の演題を取り上げ,その概要を紹介する。
不整脈・電気生理学分野のポスターセッションでは,日本を代表する3つの疫学コホート研究(CIRCS,吹田研究,久山町研究)のデータを統合したメタ解析研究による心房細動リスクスコアが発表された。高齢化に伴って急増している心房細動のリスク予測のために,非常に有用なツールと考えられる。
【11月13日・米国ルイジアナ州ニューオリンズ】
発表者: 小久保 喜弘氏(国立循環器病研究センター予防健診部)
背景・目的 心房細動は脳卒中をはじめとしたさまざまな疾患の発症や死亡の危険因子であることが知られている。予防対策の一環として,日本人一般住民を対象とした3つのコホート研究のメタ解析を行って心房細動新規発症率を予測するリスクスコアを作成し,さらに別の一般住民コホートにおける検証を行った。
方法
・リスクスコアの作成
吹田研究の5796人,Circulatory Risk in Communities Study(CIRCS)の11906人,および久山町研究の2118人を14.1年間追跡し(計28万832人・年),心房細動の発症率と,発症に関連する因子を検討。逆分散法(inverse variance weighting)によるランダム効果モデルを用いたメタ解析を行い,心房細動の新規発症率を予測するリスクスコアを作成した。
・リスクスコアの検証 茨城県健康研究(IPHS)の66326人を5.7年間追跡した結果(38万1258人・年)を用いて,リスクスコアから予測される発症率と実際の発症率の比較を行った。
(参考: 吹田研究,CIRCS,久山町研究の紹介ページへ[循環器疫学サイト epi-c.jp])
結果 リスクスコア作成コホート(吹田研究,CIRCS,久山町研究)における,追跡期間中の心房細動新規発症は551件(1.96件/1000人・年)。
多変量調整Cox比例ハザード解析において,心房細動新規発症との独立した有意な関連が認められた因子は,男性(ハザード比2.06[95%信頼区間1.48-2.87] vs. 女性),年齢(50~59歳2.38[1.82-3.10],60~69歳4.49[3.36-6.00],70~79歳10.89[7.51-15.80] vs. 40~49歳),高血圧(1.62[1.22-2.14] vs. 非高血圧),BMI≧25kg/m2(1.65[1.20-2.26] vs. 正常体重),飲酒状況(禁酒1.87[1.22-2.86],1日2~3合の飲酒1.59[1.15-2.20],1日3合以上の飲酒2.26[1.57-3.24] vs. 飲酒未経験),および冠動脈疾患既往(2.12[1.09-4.14] vs. 既往なし)であった。
上記の結果に応じたスコアを各因子に付与し(男性3点,年齢40~49歳0点,50~59歳3点,60~69歳6点,70~79歳9点,高血圧2点,BMI≧25kg/m2 2点,飲酒未経験0点,禁酒2点,1日2~3合の飲酒2点,1日3合以上の飲酒3点,冠動脈疾患既往3点),これらの合計(最小0点,最大22点)により10年間の心房細動新規発症率を予測するリスクスコアを作成した。
予測される心房細動新規発症率は,0点であれば0%,5~6点であれば2%,15~16点であれば10%となる。
リスクスコア検証コホートであるIPHSにおける追跡期間中の心房細動新規発症は636件(1.67件/1000人・年)と,リスクスコア作成コホートよりもやや低かったが,リスクスコアにより予測された発症率と実際の発症率には強い相関が認められた(P<0.001)。
発表者の小久保氏は,「わが国の疫学コホート研究では,脳卒中や心筋梗塞に比べ,心房細動に関する検討が非常に少ない。そのようななかで今回,農村部と都市部の両方を含む3つのコホート研究のメタ解析によって,日本人一般住民の心房細動発症率を予測できるリスクスコアを作成した。予防のための重要なツールとして,健診や臨床の場で活用していただきたい」とコメント。また,都市部のコホート研究である吹田研究のデータのみを用いた,単独の心房細動リスクスコア1)も作成中であることを付け加えた。
文献