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[学会情報]米国心臓協会(AHA)学術集会2016
(2016年11月12日~16日 in ニューオリンズ)
<ポスターセッション(疫学・コホート研究: バイオマーカー)>
カリウム摂取量が多いほど全死亡リスクが低い:
田主丸研究の27.5年にわたる追跡データより
田主丸研究

11月12日〜16日,ニューオーリンズ(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。
ここでは,今回のAHAで採択された日本の疫学コホート研究の演題を取り上げ,その概要を紹介する。

田主丸研究からは,カリウムの摂取が多い人の全死亡リスクは低いことが示された。日本人のNa摂取は経年的に順調に減っているが,カリウムの摂取が増えていない現状は依然として問題。保健指導では減塩だけでなく,生野菜の摂取を積極的に勧めることによる効果が期待される。


野原 夢氏
野原 夢氏
(久留米大学医学部心臓・血管内科)

【11月13日・米国ルイジアナ州ニューオリンズ】

背景・目的 カリウム(K)摂取量が少ないと,高血圧や脳卒中の発症リスクが増加することがこれまでに報告されているが,全死亡リスクとの関連については,まだ十分に検討されているとはいえない。また,K摂取量を正確に評価するためには,24時間尿中K排泄量の実測値を用いることが望ましいが,朝のスポット尿のみによる推算値を用いた研究も多い。そこで,農村部の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究である田主丸研究において,24時間畜尿による尿中K排泄量の実測値を用い,K摂取量と全死亡リスクとの関連を検討した。

方法 典型的な農村である福岡県久留米市田主丸町の住民のうち,血液生化学検査および24時間畜尿を実施できた21~85歳の1291人(男性535人,女性756人)を平均27.5年間追跡(追跡率95.8%)。

(参考: 田主丸研究が含まれるSeven Countries Studyの紹介ページへ[循環器疫学サイト epi-c.jp])

結果 おもな対象背景は,年齢51.0歳,BMI 22.5kg/m2,血圧127.4/74.4mmHg,喫煙率27.5%,飲酒率30.4%,総コレステロール185.4mg/dL,HDL-C 47.9mg/dL,トリグリセリド 105.6mg/dL,空腹時血糖109.0mg/dL,推算糸球体濾過量54.0mL/分/1.73m2,24時間尿中ナトリウム(Na)排泄量5.80g/日,24時間尿中K排泄量1.85g/日。

追跡期間中に死亡したのは631人。
死因がわかっている557人の内訳をみると,癌が153人(27%),感染症が89人(16%),脳卒中が65人(12%),心血管疾患(脳卒中を除く)が77人(14%),老衰が74人(13%),その他が99人(18%)であった。

生存者と死亡者のあいだで有意差(P<0.05)のみられた因子は,年齢(それぞれ41.4 vs. 60.4歳),男性の割合(34.9% vs. 48.3%),収縮期血圧(120.1 vs. 134.2mmHg),拡張期血圧(71.2 vs. 77.4mmHg),脈圧(49.0 vs. 56.7mmHg),喫煙率(23.3% vs. 31.0%),血清アルブミン値(4.75 vs. 4.66g/dL),総コレステロール(180.8 vs. 189.6mg/dL),HDL-C(48.6 vs. 47.3mg/dL),トリグリセリド(99.8 vs. 113.0mg/dL),空腹時血糖(101.4 vs. 116.2mg/dL),血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)(18.0 vs. 21.8IU/L),血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(12.6 vs. 14.7IU/L),推算糸球体濾過量(56.5 vs. 51.3 mL/分/1.73m2),24時間尿中Na排泄量(6.22 vs. 5.44g/日),24時間尿中K排泄量(1.98 vs. 1.76g/日)などであった。

Cox比例ハザード回帰モデル(性・年齢調整)において,全死亡との有意な関連が認められた因子は以下のとおりで,24時間尿中K排泄量は全死亡リスクとの有意な負の関連を示していたが,24時間尿中Na排泄量については有意な関連はみられなかった。

収縮期血圧: ハザード比1.010(95%信頼区間1.006-1.014),P<0.0001
拡張期血圧: 1.017(1.009-1.025),P<0.0001
脈圧: 1.009(1.003-1.014),P=0.0015
空腹時血糖: 1.007(1.004-1.010),P<0.0001
AST: 1.015(1.008-1.022),P<0.0001
ALT: 1.013(1.006-1.021),P=0.0004
24時間尿中K排泄量: 0.871(0.780-0.972),P=0.013
24時間尿中Na排泄量: 0.978(0.938-1.202),P=0.29

24時間尿中K排泄量と全死亡リスクとの負の関連は,K排泄量の四分位(Q1: 0.086~1.28,Q2: 1.29~1.75,Q3: 1.76~2.30,Q4: 2.30超~7.51g/日)を用いた多変量解析,およびKaplan-Meier解析でも同様に認められた。

以上のように,24時間尿中K排泄量により評価したKの摂取量は,全死亡のリスクと有意な負の関連を示していた。一方,Na排泄量については全死亡リスクとの関連はみられなかったことから,野原氏は「日本人のNa摂取量は順調に低下してきているが,K摂取量はまだ目標値を下回っている。高血圧などに対する保健指導では減塩のみに着目しがちだが,それよりも,緑黄色野菜や果物などからKをとろうということを強調した指導のほうが効果的である可能性もある」と考察した。ただし,Kは水に溶けやすく,湯がくと減ってしまうこと,また果物をとりすぎると果糖の過剰摂取につながりかねず,とくに田主丸町は「ぶどうや柿など果物の生産が盛んで,秋口に血糖値が悪化する人もかなりいる」ことから,野原氏はなるべく生野菜からの摂取が望ましいと述べた。

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