収縮機能が保持されているものの,拡張機能障害により心不全を呈する病態を拡張性心不全(拡張期不全)という。その成因として,一連のプロセス「高血圧→心肥大→拡張機能障害→心不全」がフラミンガム心臓研究から報告されている。しかし,これまで「心不全」といえば,収縮期不全(収縮性心不全)を指すことが多く,拡張性心不全については,あまり注目されてこなかった。そのため,その病態,治療については不明な部分が多く,診断,定義さえ曖昧な状況である。
一方で,種々の疫学研究からは,拡張性心不全は心不全患者の約半数を占めるとの報告があり,決してまれな疾患ではないことがわかる。
そこで,「拡張性心不全の病態と治療を考える」と題し,堀正二氏を司会に迎え,心不全のエキスパート,William H. Gaasch氏,小室一成氏を交え,これまでに得られた知見を整理しつつ,適切な治療の方向性について,討議していただいた。
本座談会は,2008年の米国心臓協会(AHA)学術集会中に行われ,そこで発表されたI-PRESERVE試験の結果についても触れ,拡張性心不全に関する最新の知見を網羅した内容となっている。