ホーム   >  トピックス   >   2009年のトピックス   > JSH2009の普及と正しい理解を求めて
[トピックス] 第12回日本心臓財団 メディアワークショップ
THERAPEUTIC RESEARCH vol.30 no.3 2009掲載
— JSH2009の普及と正しい理解を求めて

山口徹氏(虎の門病院)
座長の山口徹氏(虎の門病院)

2009年1月,日本高血圧学会は「高血圧治療ガイドライン2009(JSH2009)」を発表した。わが国の高血圧人口は4000万人ともいわれ,その治療ガイドラインの動向には多くの注目が集まっている。JSH2009をテーマに,「第12回日本心臓財団 メディアワークショップ」(財団法人日本心臓財団主催,社団法人日本循環器学会後援,オムロンヘルスケア株式会社協賛)が開催された。山口 徹氏(虎の門病院)が座長を務めるなか,松岡博昭氏(獨協医科大学),島田和幸氏(自治医科大学)が講演した。

●生活習慣病に対する総合的なリスク管理の重要性を強調
— 新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)のポイント
松岡 博昭氏(獨協医科大学)
松岡 博昭氏(獨協医科大学)

まず最初に,松岡氏から改訂のポイントについての発表があった。

血圧分類の呼称は,従来の"軽症,中等症,重症高血圧"から,"I度,II度,III度高血圧"に変更された。変更の理由について「たとえ,140?159/90?99mmHgであっても,血圧以外のリスク要因によっては,脳心血管リスクは高リスクに該当するため,誤解を招かないように」と説明した。

また,降圧目標値に家庭血圧と自由行動下血圧(ABPM)の値が追加されたことについて「確たるエビデンスが存在するわけではないが,白衣高血圧,仮面高血圧の存在がわかり,外来血圧以外の管理も重視する必要があるため」と補足した。

降圧薬治療の普及により国民の血圧水準は低下し,それと並行して脳卒中発症率も低下してきた。しかしながら,最近その低下は鈍化し,心血管イベントについてはむしろ増加傾向すらみられている。高血圧だけでなく,耐糖能異常,肥満,高コレステロール血症も心血管イベントの主要なリスクであることから,ガイドラインでは全般的なリスク管理を重視している。松岡氏は「若いときからの生活習慣の修正が重要であり,学会としても広く啓発していく必要がある」と強調した。

しかしながら,実際に良好な生活習慣を維持できる人は少なく,薬物治療が必要となる場合が多い。どの降圧薬を用いても基本的にリスクは低下することから,しっかり降圧することが重要である。JSH2009では,最初に投与すべき降圧薬として,Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,利尿薬,β遮断薬の5剤をあげている。JSH2004ではα遮断薬も含まれていたが,有用性を示すエビデンスの不足により推奨から外れた。

単剤で降圧目標を達成できない場合,主要降圧薬5剤のなかから併用療法を実施する。JSH2004にあったβ遮断薬+利尿薬の推奨は廃止された。なお,利尿薬は他の降圧薬の降圧効果を増強させるため,2?3剤の併用においては少量利尿薬を積極的に用いるとよい。

降圧薬治療により脳心血管イベントリスクは低下するが,その絶対的効果は高リスク症例ほど高い。そこで高リスク症例を重点的に治療するため,個々の患者のリスクを層別化できるようにした。今回,リスク評価のなかに,メタボリックシンドローム(MetS)が新たに追加された。ここでのMetSとは,正常高値以上の血圧と肥満のほかに,糖尿病に至らない血糖値異常または脂質代謝異常のどちらかを有する場合を指す。

島田氏も討論のなかで,「萌芽のうちに,すなわち若年のうちに治療しなくてはいけない,というメッセージを読み取ってほしい」と述べ,生活習慣病全体の管理の重要性を強調した。

●高齢者の特徴を理解したうえでガイドラインを読んでほしい
— 高齢者の高血圧治療の視点から
島田和幸氏(自治医科大学)
島田和幸氏(自治医科大学)

つづいて島田氏により高齢者の高血圧治療について解説があった。

高齢者の高血圧治療に関しては,前回のガイドライン(JSH2004)からの変更点はほとんどない。島田氏は「ガイドラインの行間をどう読むかをお話し,高齢者の特徴を理解したうえでガイドラインを読んでほしい」と前置きして,講演を始めた。

74歳以下では,90%以上が完全に独立して生活ができるが,75歳以上になると,その割合は著しく低下するため,高齢者の治療といっても「とくに75歳以上は分けて考える必要がある」と説明した。高齢者では脳心血管イベントの絶対リスクは高いが,他のリスク要因も増えてくることから,血圧上昇と脳心血管イベント発症との関係は,加齢に伴い鈍化していき,高血圧の死亡への寄与度は若年者ほど大きくなくなる。

JSH2009では高齢者の最終降圧目標値を140/90mmHgに設定し,150/90mmHg未満を中間目標とする緩徐な降圧を推奨している。しかしながら,高齢者高血圧に対するプラセボ対照介入試験において,実薬群の血圧が140/90mmHg未満を達成したとのデータはない。また,厳格降圧群と緩和降圧群を比較したJATOSでは,厳格降圧群で140/90mmHg未満を達成したものの,緩和降圧群と心血管イベント発症率に差はみられず,現時点では140/90mmHg未満を支持するデータはない。したがって,「高齢者の降圧目標値は,おそらく良いだろうとの推測に基づいて設定したにすぎない」と述べた。

ただし,80歳以上の超高齢者で実施されたHYVETでは,プラセボ群に比し,降圧治療群で死亡率が低下しており,降圧療法の有用性が示されている。

JATOSとHYVETの結果は一部矛盾している。島田氏は「高齢者に関する記載は,この2試験をどのように解釈するかに帰する」と述べるとともに,JATOSには検出力不足などいくつかの方法論的な問題があることも指摘した。

高齢者では,主要降圧薬のなかからβ遮断薬が推奨から外れ,Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,少量利尿薬から薬剤を選択し,降圧が不十分な場合は併用治療を行う。「高齢者高血圧は,交感神経やレニン-アンジオテンシン系といった機能的問題より,血管などの構造的問題が原因となっていることが多いため,とくにCa拮抗薬を中心とした治療が中心となるだろう」と解説した。

* *

両氏の講演後,「併用療法の考え方」,「コストベネフィットの問題」など活発な討論が行われた。

最後に座長の山口氏が「高血圧治療ガイドラインは,改訂を重ね,より具体的になってきている気がします。JSH2009が国民の健康に役立てばよいと思います」と述べ,会は終了した。

JSH2009日本心臓財団メディアワークショップ
左から松岡博昭氏,島田和幸氏,山口 徹氏2月24日,時事通信ホール

▲このページの上へもどる