「世界腎臓デー2009」のロゴ |
現在,わが国の慢性腎臓病(CKD)患者は1330万人に達し,うち600万人が治療を要すると推定される。しかし,自覚症状に乏しいためにCKDであることに気づいていない患者も多く,また社会的な認知度も高いとはいえない。
3月12日(木)の世界腎臓デー* に先立ち,2009年3月8日(日),御茶ノ水にてCKD啓発イベント講演会『ストップ慢性腎臓病(CKD)』(主催: 日本慢性腎臓病対策協議会[J-CKDI]・財団法人日本腎臓財団,後援: 厚生労働省・社団法人日本医師会・特定非営利活動法人腎臓病早期発見推進機構[IKEAJ])が行われた。また,同日,東京お台場にて一般の人を対象とした世界腎臓デーのキャンペーンが行われた(囲み記事参照)。
* 「世界腎臓デー(World Kidney Day)」は,腎臓病に対する認識を深め,予防につなげることを目的とした国際的な取り組みで,毎年3月の第2木曜日に実施される。
同日行われたプレスカンファレンスで,日本腎臓学会より3月中に刊行予定の「CKD診療ガイド2009」,および「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」に関する発表があった。前者は一般のかかりつけ医,後者は専門医を対象としている。
「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」(左)と「CKD診療ガイド2009」(右)「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」は3月26日頃に発刊予定。追って日本腎臓学会ウェブサイトでの公開,および財団法人日本医療機能評価機構の「Minds医療情報サービス」での公開が予定されている。 |
「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」の最大の特徴は,日本腎臓学会学術委員会委員長の佐々木成氏(東京医科歯科大学)によると,エビデンスを重視していることだ。CKDに関するこれまでのエビデンスを可能な限り集め,それに基づいたガイドラインとした。もう1つの大きな特徴として,アブストラクトテーブルがある。推奨されている内容の根拠となった文献の概要が表形式で簡略にまとめられている。
ただし,CKDは2002年ごろから登場した比較的新しい概念であるため,エビデンスが十分に蓄積されているとはいえず,とくに日本人を対象としたエビデンスは少ない。佐々木氏は,「日本人でのエビデンスなど,これからの数年で新たに得られるものもあるだろう。今後,必要に応じて改訂を重ね,よりよいものにしていきたい」と述べた。
一方,「CKD診療ガイド2009」は,2007年9月に発行された「CKD診療ガイド」の改訂版となる。改訂のポイントについて,日本腎臓学会理事の飯野靖彦氏(日本医科大学付属病院)は「日本人向けのGFR(糸球体濾過量)推算式が追加されたこと」と述べた。また,治療の際にはGFRを目安に薬剤の投与量を決めるプロセスが重要になるため,巻末にはGFRと薬剤の使用方法に関する詳細な表が掲載されるという。
佐々木氏は,今回の「CKD診療ガイド2009」「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」の作成の経緯において,他学会のガイドラインなどとの整合性を進めるなかで苦労もあったことを明かした。とくにCKDの約半数以上を占める糖尿病性腎症に関しては,病期分類がCKDとは異なっており,これからも議論しなければならない部分がある。日本高血圧学会とも初期治療薬剤などの点で議論を重ね,コンセンサスを得た。
佐々木氏は,「CKDはさまざまな臓器に影響するため,今後さらにいろいろな学会と協力していく」と意欲をみせた。
2009年3月8日,東京ガーデンパレスにて |
CKD啓発イベント講演会『ストップ慢性腎臓病(CKD)』は,関連学会および医師を対象としたもので,今年で第3回を迎える。約3時間にわたってCKDに対するさまざまな取り組みが紹介されたが,ここではそのなかから「腎疾患重症化予防のための戦略研究(FROM-J)」,「日本人のGFR推算式と自動レポートシステム」,シンポジウム「コメディカルとの連携を生かしたCKD診療連携システム」および「J-CKDI行動計画」について簡単に紹介する。
厚生労働省の戦略研究FROM-Jは,腎機能悪化の抑制およびコメディカルを含めた医療連携診療体制の構築を目的とした研究。同時に,日本人のエビデンスによる治療指針の策定も目指しており,CKD患者を対象に,医師の指導のみの介入と,医師の指導に加えてコメディカルによる服薬・生活・食事指導を行う介入を比較する。
日本人向けの係数を用いたGFR推算式は高い正確性をもつが,計算が複雑であり,診療現場で日常的に活用するための利便性が求められている。今回,ノモグラムや簡易早見表とともに,検査オーダー時に血清クレアチニン値から推算GFR(eGFR)を自動的に計算するシステムが紹介された。
コメディカルとの連携をテーマに掲げたシンポジウムでは,パネリストとして地区医師会の医師,保健師,管理栄養士,看護師,薬剤師らが招かれ,住民や患者と接する現場からの意見や取り組みの状況が紹介された。
とくに特定健診の検査項目から外れた「血清クレアチニン値」について,茨城県の地区医師会の飯竹一広氏(いいたけ内科クリニック)は「蛋白尿だけでは腎疾患をとらえきれないため,水戸市では独自に血清クレアチニンを検査項目に追加している」と述べた。さらに保健師の松川洋子氏(上川町保健福祉課)は,「尿検査だけではCKD予防のための介入の時期が遅れてしまうため,各保険者の判断で血清クレアチニン値の積極的な導入が必要」と強調した。これに関して,座長の内田健夫氏(日本医師会)が,出席していた厚生労働省健康局長に「(こうした意見があることが)よくおわかりいただけたでしょうか」と水を向ける場面もあるなど,活発な雰囲気のなかで意見交換が行われた。
松尾清一氏(名古屋大学) |
最後に,J-CKDIの前事務局長である松尾清一氏(名古屋大学)より,「CKD患者の予後と生活の質改善のための行動計画」が発表された。行動計画には,腎疾患登録システムや診療ガイドラインの活用,日本医師会や糖尿病対策推進会議などの団体との協力,およびコメディカルとの連携の強化といった内容が含まれる。CKDの早期発見・早期治療に向けた一層の啓発および対策推進をうたい,会は締めくくられた。
腎臓チェックキット配布キャンペーン
「世界腎臓デー2009 腎臓チェックキット配布キャンペーン『あなたの腎臓大丈夫?』」が2009年3月8日(日),アクアシティお台場(東京都港区)で行われた。このキャンペーンは一般の人たちに向けて行われたもの。日本慢性腎臓病対策協議会(J-CKDI)と日本腎臓財団の主催で行われた。当日は,アクアシティお台場を訪れた行楽客の人たちに,腎臓チェックキットが無料で配布された。また,世界腎臓デーの特別サポーターで,スポーツコメンテーターの古田敦也氏と,日本慢性腎臓病対策協議会理事長の槇野博史氏(岡山大学教授)によるトークショーも催された。
槇野氏から「日本では成人の8人に1人,1300万人がCKD」という数字が紹介されると,古田氏はその多さに自身も含めて「CKDに注意し,きちんと健康をチェックする必要がありますね」と認識をあらためていた。