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[トピックス] KYOTO HEART Studyの結果を国内メディアに発表
— バルサルタンの降圧を超えた効果,およびバルサルタン独自の効果が明らかになったと松原氏
松原弘明氏
KYOTO HEART Study統括責任者の松原弘明氏(京都府立医科大学)

日本人を対象としたバルサルタンの大規模臨床試験であるKYOTO HEART Studyの結果が,2009年9月1日,欧州心臓病学会(ESC)2009のHot Lineセッションで松原弘明氏(試験統括責任者)により発表された。

9月11日に開催されたノバルティス ファーマによるメディアフォーラムでは,ESCから帰国したばかりの松原氏本人により,日本ではじめて試験の背景,デザイン,結果の詳細やその意義について講演が行われた。

背景/目的: 日本人高リスク高血圧者におけるエビデンスをアジアや欧米へ

松原氏はまず,本邦の高血圧治療のポイントとして,「欧米に比べて肥満や心筋梗塞が少なく,脳卒中が多い」という発症パターンの特徴や,「アジア人はレニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬への反応性が高い」「欧米と日本とでは降圧薬の使い方が異なっている」といった治療の現状を紹介。日本では高血圧に関する大規模臨床試験が少なく,日本人のエビデンスをアジアや欧米へと発信する必要性があると説明した。

また,初期のARBの大規模臨床試験の多くが心血管疾患の既往を有する人を対象としていたのに対し,近年では,より早い段階における予防へと重点が移ってきていることを指摘。そこでKYOTO HEART Studyでは,「まだ発症していない」高リスク高血圧患者を対象に,標準的な降圧療法にバルサルタンを追加することにより,心血管イベント発生に有意な効果があるかどうかが検討された。

試験プロトコール: 試験デザインにはPROBE法を採用

KYOTO HEART Studyの対象は,心血管疾患危険因子を1つ以上もつ,血圧コントロール不良の高リスク高血圧患者3,042例。試験デザインには,薬剤の投与をオープンラベルで行い,アウトカムの評価を盲検化して行うPROBE法が採用された。松原氏はこのことについて,「日本では二重盲検試験を行うことはほぼ不可能であるためPROBEデザインで行ったが,評価基準および評価方法は盲検化されており,バイアスはある程度削除される。オープンラベル試験は,実際の臨床に近い試験デザインでもある」と補足した。

対象患者はバルサルタン群(バルサルタンを中心とした治療)および従来治療群(ARB以外を用いた治療)の2群にランダムに割付けられ,各群のARB以外の治療内容については,担当医師の自由裁量とされた。ARB群で試験期間中に実際に追加された薬剤としては「Ca拮抗薬がもっとも多かった」と松原氏。

一次エンドポイントは,脳卒中・TIAの発症/急性心筋梗塞の発症/狭心症の発症または悪化/解離性大動脈瘤の発症/下肢動脈閉塞症の発症/透析導入または血清クレアチニン倍化の複合である。

試験結果: バルサルタンの降圧を超えた効果,およびバルサルタン独自の効果が示された

試験期間中の血圧コントロール状況は両群とも良好で,試験終了時の血圧にも有意差はみられなかった。

複合一次エンドポイントの発生率は,バルサルタン群において,従来治療群よりも有意に45%低下した(ハザード比0.55,95%信頼区間 [CI] 0.42–0.72,P=0.00001)。

内訳をみると,従来治療群に比してバルサルタン群で有意な低下がみられたのは,狭心症(−49%,P=0.01058),脳卒中(−45%,P=0.01488),糖尿病新規発症(P=0.02817)であった。これについて,松原氏は「どのARBでも,新規糖尿病発症を抑制する効果は認められている。一方,今回の結果で特徴的なのは,狭心症および脳卒中の抑制効果がみられたこと」と指摘するとともに,「2009年に改訂された高血圧治療ガイドライン2009では,狭心症を合併する高血圧患者の第一選択薬はCa拮抗薬となっているが,KYOTO HEART Studyの結果をうけ,次回の改訂ではARBが第一選択薬となるだろう」と述べた。

以上の結果より,松原氏は今回の結果の特徴について「日本人の高リスク高血圧患者において,通常治療にバルサルタンを加えた際に,降圧を超えた効果がきれいにみられたこと」と強調した。

また松原氏は,これまでに日本で行われたARBの大規模臨床試験とKYOTO HEART Studyとの結果の違いについてもふれた。

たとえば,ARBカンデサルタンの心血管イベント抑制効果をCa拮抗薬のアムロジピンと比較したCASE-J試験では,対象患者はKYOTO HEART Studyと同様の「高リスク高血圧患者」であったが,一次エンドポイントの結果に有意差は認められなかった。またHIJ-CREATE試験では,冠動脈疾患患者を対象に「カンデサルタンを中心とした治療 vs 非ARB治療」というKYOTO HEART Studyと同様の比較を行っているが,やはり結果に有意差はみられなかった。

このようにカンデサルタンの試験とバルサルタンの試験とで結果が異なる理由について,「はっきりとした理由はわからない。ただし,同じARBでも,それぞれの薬剤が独自の効果(molecular effect)をもつ可能性がある。バルサルタンはARBのなかでもアンジオテンシンIIタイプ1受容体への選択性が非常に高い。今回の結果より,バルサルタンは,日本で現在発売されている6種類のARBのなかで『血管保護効果に優れたARB』といえるのではないか」と松原氏は述べた。

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