ホーム   >  トピックス   >   2010年のトピックス   > 改正臓器移植法施行後の心臓移植—現状と将来の展望—
[トピックス] 第4回日本循環器学会プレスセミナー
改正臓器移植法施行後の心臓移植—現状と将来の展望—

2010年1月に改正臓器移植法の一部が施行され,臓器提供の意思表示にあわせ,ドナーの親族へ臓器を優先的に提供する意思の表示が可能になった。7月には同法が全面施行され,本人の臓器提供の意思が不明な場合も,家族の承諾があれば臓器提供ができるようになり,15歳未満の脳死下での臓器提供も可能となった。この改正臓器移植法の施行後,わが国における心臓移植の件数が急激に増加している。こうした状況のなか,9月24日,「改正臓器移植法施行後の心臓移植―現状と将来の展望―」をテーマとし,日本循環器学会による第4回プレスセミナーが開催された。ここでは,小児における心臓移植を中心に,セミナーの内容を紹介する。

第4回日本循環器学会プレスセミナー
2010年9月24日,第4回日本循環器学会プレスセミナー(東京)
小児の心臓移植の現状

これまで,小児の心臓移植のほとんどが海外渡航により行われてきた。しかし海外で心臓移植を受けるには,多くの煩雑な手続きと,莫大な費用を必要とする。今回の改正法の施行により,小児の脳死下での臓器提供が可能となり,国内での移植の実現に期待が寄せられている。しかし,小児の適応患者には,成人より病期の進行が早い,成人で必須とされている検査(心筋生検,運動耐用能検査など)が実施しにくい,β遮断薬・ACE阻害薬の有効性がはっきりしていない,小児特有の疾患(先天性心疾患など)があるなど,さまざまな困難があるため,成人とは異なる観点から適応を判定する必要がある。国内における小児の心臓移植の適応を判定している,日本小児循環器学会臓器移植委員会の「小児心臓移植の適応判定ガイダンス」では,適応を決定する際,哺乳力低下,体重増加不良,発育障害,易感染性,多呼吸・努力呼吸などを心不全の重症度の指標として考慮し,β遮断薬とACE阻害薬の使用効果,心筋生検は必須としなくてよいとしている。

一方,このような基準により移植の適応が認められても,小児の適応患者の予後はきわめて悪く,適応と判断されてから死亡までの平均生存期間はわずか7.5ヵ月である。現状では,待機期間は平均883日であるため,待機中に死亡する例も少なくない。また,待機患者のほとんどが補助人工心臓(VAD)を装着しているが,国内では小児用VADが承認されていないため,成人用VADが用いられており,体重15kg以下の患者では装着できない。さらに,補助期間は最長で361日であり,200日を超えると血栓イベントの発生率が100%に達するという限界もある。

小児のドナーからの臓器移植の難しさ

改正臓器移植法の施行により小児の心臓移植の可能性が高まったが,いまだ解決しなければならない問題が山積している。そのひとつに,小児のドナーからの臓器提供を行う施設の体制不備があげられる。小児のドナーから臓器を提供する場合は,虐待の有無の判定が必要とされる。臓器提供を行う施設では,虐待防止委員会などを設置し,虐待の対応に関するマニュアルを定め,虐待の有無を判定することが義務づけられている。また,警察による検視を行わなければならない。
そのため,こうした小児の臓器提供の体制が整備されている施設はいまだ少ない。国内の222施設を対象として行われた日本脳神経外科学会の調査では,成人の心臓移植については,86%が「整備されている」と回答したが,小児では16%にとどまった。

中西敏雄氏
中西敏雄氏

しかし,心臓移植は,他の治療法では救命できない患者に対する最終的な治療手段である。多くの課題を抱えてはいるものの,将来的には,小児心臓移植の先進国と同様のペースでの移植実施を目指すとしている。

講演を行った中西敏雄氏(東京女子医科大学)は,「心臓移植により,10~20年の延命が可能となる。一日も早く体制が整備され,国内における小児の心臓移植が増加することを期待する」と結んだ。


▲このページの上へもどる