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医師教育と企業の関係はどうあるべきか

米国のほとんどの州で,医師は「医師生涯教育プログラム(Continuing Medical Education:CME)」において,継続的に生涯教育を受けることが義務付けられている。このプログラムは,大学や病院,学会,民間の医学教育コミュニケーション会社などにより提供されているが,「生涯教育認定機構(Accreditation Council for Continuing Medical Education:ACCME)」の認証を受けなくてはならない。

これまで,CMEは製薬企業などから多額の支援を受けてきたが,2010年6月,ACCMEは,CMEで製薬企業職員が自社製品に関する発表を行うことを禁止した。これに対して米国心臓協会(AHA)が反対,ACCMEとの協議の結果,AHAの自治権が認められた。ACCMEは企業と雇用関係にある者はすべて“企業職員”と規定しているが,AHAは,大学の教員などの,企業と契約を結んだだけで,企業に直接雇用されていない者は“企業職員”ではないとしている。

企業が資金援助する医師教育については,1950年代から議論がなされてきたが,とくに最近,その動向に注目が集まっている。ここでは,2010年5月のCirculation誌に発表された,容認派と反対派からの見解の概要を紹介する。

企業援助と医師教育にはバランスが必要

Harrington氏とCaliff氏(Duke大学)は,医師教育に企業から資金援助を受けることは,経済的に避けられない状況にあると指摘している。AHAや米国心臓病学会(ACC)の学術集会では,毎年,幅広いセッションが提供されている。参加者のニーズに応えるためには莫大な費用が必要であり,企業からの援助に頼らざるをえない状況にある。実際,2004年の米国リウマチ学会の会長演説で,同学会会長のWofsy氏は「1998年以来,学会の運営費は75%も増加しているにもかかわらず,会費は6%しか増額していない」と述べている。 こうした状況において,著者らは,企業からの資金援助を受けることと,医師教育を適切に行うことに「バランスをとることが必要」と主張している。そのためには,企業からの資金援助を抑え,支払い方法を見直し,医師が適切で自主的な教育を受けられるようにするための組織を構築することが必要である,と論じている(Circulation. 2010;121:1221-7.[PubMed])。

医師教育に企業は介入すべきでない

Avorn氏とChoudhry氏(Harvard Medical School)は,企業が医師教育に介入することの影響について指摘し,警戒をうながしている。企業が医師教育にもっとも介入している場はCMEである。CMEには,毎年,約25億ドルの費用が必要とされているが,その半分の資金を企業が提供している。また,企業がスポンサーとなっているセッションでは,その企業の薬剤の有効性は,他の薬剤の2.5~3倍も言及されるという報告もある。こうした懸念を受けて,2007~2009年の間に,3つの有力な組織が,すべての医師教育から企業の介入を排除すべきという推奨を発表している。また,米国のいくつかの州では,医師らにエビデンスに基づいた教育プログラムを提供するための公共の基金が設立された。さらに著者らは,これだけでは十分ではなく,医師教育の独立性を維持するためには連邦政府も同様の基金を設立する必要があり,また医師自身も費用を負担すべきとしている(Circulation. 2010;121:1228-34. [PubMed])。

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