2010年12月20日,心房細動患者に対して厳格な心拍数調節治療を行っても,緩やかな心拍数調節治療に勝ることはないとする『2011 ACCF/AHA/HRS心房細動管理ガイドライン限定アップデート(focused update)』が発表された。
このアップデートは「米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)/欧州心臓病学会(ESC)心房細動ガイドライン2006」をもとに,その後のエビデンスから改訂が必要となった箇所だけを記した限定的もの。AHA,ACC,HRS(米国不整脈学会)のガイドラインとして,Circulation誌(PDF),J Am Coll Cardiol誌(リンク),Heart Rhythm誌(リンク)のウェブサイトに掲載された。
主な改訂点は以下のとおり。
心拍数調節に関する推奨の変更では,左室駆出率の安定している持続性,永続性心房細動患者では,心拍数を厳格に(安静時80拍/分未満,6分間歩行時110拍/分未満)管理しても,緩徐な(安静時110拍/分未満)管理に勝る有効性はないとしている。
このアップデートの筆頭著者であるL. Samuel Wann氏(ウィスコンシン心臓病院心臓部門長)は次のように述べている。「エビデンスから,厳格な治療は有効ではないことが示されました。とくに運動負荷試験や心拍数調節目的で多剤服用している場合,心拍数の絶対値にこだわる必要はありません。症状のある頻脈の患者では治療が必要ですし,持続する頻拍の心室機能に対する長期的な有害作用については検討が必要です」。
このほかに次の改訂も行われた。
クロピドグレル:ワルファリン不適応の心房細動患者においては,脳卒中などの塞栓症を予防するためにアスピリンとクロピドグレルの併用を「考慮してもよい」とした。ワルファリンが有効であることに変わりはないが,定期的な検査と用量調整が必要なことは,「ほとんどの患者では問題にならないが,一部の患者ではとても不便に感じられる」(Wann氏)。
Dronedarone:経口dronedarone投与は心房細動に関連した心血管関連イベントによる入院を抑制することが最近示された。ただし,NYHA IVの心不全患者や,過去4週間以内に非代償性心不全のエピソード(とくに心室機能低下)を有する患者には同薬剤は投与出来ない。同薬剤はアミオダロンに比べて入院や有害事象との関連が少ないことが示されている。
カテーテルアブレーション:正常な心調律の維持に果たすカテーテルアブレーションの役割についていくつかの推奨が追加,改訂された。アブレーションは経験の多い施設(年間50症例以上)で,適切な患者に行われれば有効である。症候性の発作性心房細動例で薬物治療不成功で,重度の肺疾患を有せず,左房サイズが正常もしくは軽度の拡張か左室駆出率の低下が軽度の患者ならば,アブレーション治療は「洞調律維持に有効です」とWann氏。
症候性の持続性心房細動患者への治療選択肢としても妥当であり,左房が著しく拡大している,あるいは顕著に左室障害のある症候性発作性心房細動症例においても治療選択肢となる場合がある。
Wann氏は「カテーテルアブレーションは心臓領域でもっとも急速に発展している手技であり,エビデンスも得られています」と述べた。