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日本ベーリンガーインゲルハイム プレスセミナー「心房細動治療の現状と将来展望—これからの心房細動治療で重要なことは—」

2010年12月7日,「心房細動治療の現状と将来展望—これからの心房細動治療で重要なことは—」をテーマとし,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社によるプレスセミナーが開催され,山下武志氏(財団法人日本心臓血管研究所)より心房細動治療の現状や課題についての見解が説明された。

心房細動治療の現状

心房細動治療は,この十数年で大きく変化してきた。その要因として,まず,心房細動患者の変化があげられる。患者数は年々増加しており,現在では1980年代の約2倍となっている。また,患者背景も多様化しており,多くの患者が高血圧や糖尿病,心不全などを合併している。さらに,心房細動患者では脳卒中のリスクが高いことがよく知られているが,わが国を代表する疫学研究である久山町研究においても,脳卒中のなかで心原性脳塞栓症の増加が著しいことが示されている。

山下武志氏
山下武志氏

患者だけでなく,治療ツールも大きく変化してきた。1990年前後を中心として抗不整脈薬の開発が相次ぎ,さまざまな薬剤が用いられるようになった。それと関連して,薬剤の分類は従来のVaughan-Williams分類からSicilian Gambitへ移行し,不整脈治療には電気生理学的見地だけでなく,より広範な理論的構築がなされるようになった。

こうした背景から,心房細動治療は「多彩な薬理学的作用」と「多様な理論的背景」で「莫大な数の多様な心房細動患者」へ対応すべく,非常に複雑なものとなった。

クリニカルエビデンスの影響

患者数は増える一方にもかかわらず,治療法が複雑化し,不整脈を専門としない医師が心房細動患者に対応することが難しくなった。こうした問題への解決の糸口を示すのが,大規模臨床試験などのエビデンスである。1989年に発表されたCAST試験では,プラセボ群に比べ,理論をもとに設定された仮説では優ると考えられていた抗不整脈薬治療群のほうが,生存率が低下するという結果が示され,疾患を理論から「理解」しても,「治療」には結びつかないことが認識されるようになった。その後も心房細動患者を対象とした臨床試験が相次ぎ,それ以前に信じられてきた治療が万能ではなく,まったく意味をなさない場合すらあることが示された。

こうしたクリニカルエビデンスの影響は決して小さくはなく,試験の結果が実際の臨床に反映されていることが報告されている。AFFIRM試験ではレートコントロールとリズムコントロールの有効性に差はないことが示されたが,この結果の発表後,より簡便なレートコントロールが多く用いられるようになったことが明らかになっている。

これからの心房細動治療

今後の心房細動治療において重要なのは,より単純な治療ツールで,原則的な治療目的と単純な方針に基づくことである。その方法のひとつとして,3つのステップで心房細動に対応することが有用であると考えられる。(1)患者の「命」を護るため,患者の背景因子を再確認して,是正する,(2)患者の「脳」を護るため,抗凝固療法を考慮する,(3)患者の「生活」を護るため,洞調律維持を目指す。このステップは,欧州心臓病学会(ESC)の心房細動ガイドライン2010でもとりあげられている。

心房細動患者の「命」を護るためには,まず,患者の全体像を把握することが重要である。心房細動患者の生命予後は,心房細動そのものによってではなく,背景因子によって規定されることが示されているため,冠動脈疾患やうっ血性心不全,糖尿病などの合併症を是正することが必要である。つぎに,患者の「脳」を護るためには,CHADS2スコア(C: うっ血性心不全,H: 高血圧,A: 年齢≧75歳,D: 糖尿病,S: 脳卒中・一過性脳虚血発作)により脳梗塞のリスクを評価し,高リスク患者にはワルファリンを投与すべきである。最後に,患者の「生活」を護るために,抗不整脈薬やカテーテルアブレーションにより,症状を取り除き,QOLを向上させることが求められる。

抗凝固療法の問題

心房細動患者での脳梗塞予防にはワルファリンが有効であり,各種ガイドラインでも推奨されているが,実際には,脳梗塞既往を有する心房細動患者の約半数にしか用いられていない。その理由として,コントロールの難しさや大出血のリスク,他の薬剤や食品との相互作用の問題があるとされている。ワルファリンは至適治療域を維持しなければならず,そのための定期的な血液検査も必要である。コントロールがうまく保たれず,大出血が発生すると,医師が投与を中止してしまうことも指摘されている。また,患者やその家族にとっても,食事の制限や抜歯への注意など,心理的抵抗が大きい薬剤でもある。

こうした状況を解決するため,現在,新しい抗凝固薬が開発されている。血液凝固カスケードには開始反応,増幅反応,フィブリン生成反応の3段階がある。ワルファリンは開始反応と増幅反応に関与する複数の因子に作用してしまうため前述のような問題が生じるが,よりピンポイントに作用すると考えられる第Xa因子阻害薬や直接トロンビン阻害薬が登場しており,期待が寄せられている。

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