昨年行われた欧州心臓病学会(ESC)2010学術集会では,心不全患者に対するivabradineの有効性を示したSHIFT試験の結果が発表された。ivabradineは洞房結節のIf電流を特異的に阻害し,心拍数を減少させる作用をもつ。これまでの標準治療に,「心拍数」という新たな治療ターゲットへの介入を行うことで患者の予後が改善しうるという今回の結果は,おおむね好意的に受け止められている。新たな心不全治療戦略としての期待がかかるだけに反響も大きく,Lancetの2010年12月18日号に2件の投書(Correspondence)が寄せられた。ここではその概要を紹介する。(編集部)
Gupta A氏とSharma YP氏は,SHIFT試験で標準治療として行われた治療内容について何点か指摘した。まず,ivabradine群でβ遮断薬が投与されなかった11%の患者について,これらの患者におけるivabradineの反応性の詳細を明らかにするよう促している。ivabradineの恩恵を最も受けるのは,β遮断薬を投与できない心不全患者と考えられているためだ。また,レニン・アンジオテンシン系抑制薬が投与されたのは最大93%に留まり,残りの患者に同薬が用いられなかったことについても説明を求めている。
また,患者集団のほとんどが白人で,BMIは平均28.0だった。アジア人は白人に比べBMIが低く,BMIの低い症例では一般に心拍数も低い。同氏らは,アジア人においてはivabradineによる心拍数低下の意義は不明だとしている。(Lancet. 2010; 376: 2069)
これに対しSHIFT試験の論文著者らは,「β遮断薬の投与の有無による,ivabradineの効果の差は認められていない。したがって,β遮断薬不耐性の患者でも心拍数が高い場合はivabradineがβ遮断薬の代替療法になることが期待できる」との回答を,同紙面上に寄せている。また,ベースライン時の心拍数によるivabradineの有効性への影響については,今後,論文にまとめることになっている。(Lancet. 2010; 376: 2069-70)
Kang SM氏らは,SHIFT試験対象者に左脚ブロック(LBBB)患者が含まれていたのか否かについて重視している。LBBBは心不全の予後不良マーカーであり,このような高リスク患者に対する特別な治療法は存在しない。ivabradineは房室結節伝導やLBBBそれ自体には影響を及ぼさないといわれているが,SHIFT試験にLBBB患者が含まれていたのであれば,そのサブグループでの解析の実施が望ましいと,同氏らは述べている。(Lancet. 2010; 376: 2069)
SHIFT試験の論文著者らは,「高リスク患者の多くは心臓再同期療法を受けており,ペースメーカー作動時間が1日の40%以上である患者は除外されたため,LBBB患者の割合は比較的少数の13.3%だった。しかし,事前設定されていないため,LBBBでのサブグループ解析を行うのは難しい」と応じている。(Lancet. 2010; 376: 2069-70)