2011年2月1日,日本再生医療学会は未承認の再生・細胞医療に対する声明文を発表した。民間の施設において,国の認可を受けていない幹細胞治療が行われているとの報道に対するもので,患者やその家族に注意を呼びかけ,行政に対して安全性を確保する体制の構築を訴えている。
今回の声明文は,難病や障害に対して,患者の脊髄や脂肪から採取した組織に由来する幹細胞を使用した「幹細胞治療」が,国の規制を受けずに民間施設で行われているという2011年1月31日付の朝日新聞の報道に対して,緊急に発表された(声明文全文 http://www.jsrm.jp/media/110201.html)。
本来,再生・細胞医療の実施に際しては,「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」や薬事法に基づく治験の申請によって安全性を確保することが必要とされている。しかし,医師法では幹細胞治療に対する規制がないため,日本においては「医師の裁量権」として,これらの手続きを経ずに,幹細胞の輸液や投与,移植などが行われている。今回問題となったケースでは,海外のバイオ企業に細胞の培養を外注し,その細胞を患者に投与していた。
再生・細胞医療は,難病などの疾患に対する有効性が期待されているが,いまだ安全性については研究段階にある。未承認の幹細胞治療は科学的根拠が低く安全性が確保されておらず,患者に対する健康被害だけでなく,今後の幹細胞治療の推進の障害や,市民に誤った認識を与えるなどの問題が憂慮されている。
岡野光夫氏
この声明文において,日本再生医療学会は,同学会会員に対して法令やガイドライン等を遵守し,未承認の幹細胞治療に関与しないことを求めた。また患者やその家族には,未承認の幹細胞治療を安易に受診せず,治療を行う医療機関が公的機関から認められているか,または臨床研究や治験などの承認を受けているかを確認することを呼びかけた。さらに行政に対しては,医事法や薬事法などを改正し新たな医療提供体制を構築することで,未承認の幹細胞治療に対する患者の安全性を早急に確保することを要望するとともに,再生・細胞医療について,臨床研究から治験・診療報酬を推進する制度を確立し,国民へ早期に技術還元を図ることを提言した。
同学会理事長の岡野光夫氏は「現在,情報の収集を進めている。周囲でこのような医療行為が行われている場合は,学会まで知らせてほしい」と協力を求めた。