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[TOPIC] 
日本メドトロニック 医療技術メディアセミナー
「致死性不整脈の最新治療と今後の課題」

2011年2月18日,日本メドトロニック株式会社による医療技術メディアセミナーが開催され,三橋武司氏(自治医科大学)による「致死性不整脈の最新治療と今後の課題」をテーマとした講演が行われた。

心原性心肺停止の現状
三橋武司氏

三橋武司氏

日本では現在,年間6万例の心原性院外心肺停止が起こっていると推定されている。自動体外式除細動器(AED)の普及により救命される例も増えつつあるが,4万例では目撃者がなく,心臓突然死の予知,予防が重要である。

心臓突然死のほとんどは頻脈性不整脈によるもので,とくに心室細動はもっとも危険性が高い。心室細動に対しては早急な除細動が必要であり,蘇生の可能性も1分ごとに7~10%低下することが報告されている。また,ALIVE試験によれば,心室細動から救命できた症例でも,生存入院率は約20%であり,生存退院率は10%以下である。


心筋梗塞患者における心臓突然死の予防

心臓突然死をもっとも起こしやすいのは冠動脈疾患であり,心臓突然死例の約75%に心筋梗塞の既往が認められている。このため,心室細動や心室頻拍などを発症した心筋梗塞患者に対しては,心臓突然死を予防する治療が行われている。その方法として当初は抗不整脈薬が用いられていたが,CASTなどの臨床試験の結果,抗不整脈薬使用によって予後がむしろ悪化することが示された。一方,MADIT試験やMADIT-II試験では心筋梗塞患者における心臓突然死のICDによる一次予防が検討され,左心機能が低下している例においては,不整脈の有無や程度,原因疾患の種類を問わず,ICD植え込みによる予後の改善が認められた。これらの試験の結果から,ICDが第一選択となった。

心不全患者における心臓突然死の予防

心不全患者においても心臓突然死の割合は高く,心不全患者の死因の約半数は不整脈による心臓突然死である。そのリスクは左室機能の低下とともに増加し,左室駆出率が30%以下の場合,約7.5%と報告されている。心不全では,左室の拡大により,右室と左室の間で,興奮や収縮に時間差が生じ(左室内伝導障害),心機能の低下へとつながる。これを改善するため,右室と左室を同時に刺激する両室ペーシング(心臓再同期療法:CRT)が行われる。このためのデバイスとしては両室ペーシング機能と除細動機能を併せもつCRT-Dが広く使われている。

ICD,CRT-D植込みの問題点

一方で,ICDやCRT-Dを植え込んだ患者では,社会生活への障害やデバイスに対する不安などが問題となっている。ICD患者は,疾患の性質上,比較的若年の男性に多く,全体の約2/3が就業者である。ICD植込み後に同じ職場で同じ仕事をしている患者は36%にとどまり,職場や仕事内容が変化したり,休職,退職する患者が多い。また,失神の可能性があるため,自動車運転も原則として禁止される。さらに,不適切なショック作動が患者のQOLを低下させ,ショックそのものが死亡リスクとなることも報告されている。

不適切なショック作動を減らすため,ICDやCRT-Dには,正確な診断をすること,心室細動や心室頻拍の検出周期や持続時間の閾値を下げて治療開始を遅らせること,できるだけ患者の苦痛のない抗頻拍ペーシングで治療すること,徴候を早くみつけることが求められている。こうした要望に応えるべく,新たなデバイスが開発・発売されてきている(関連記事)。また,徴候を早くみつけるため,遠隔モニタリングが導入されはじめている。これは電話回線を通じて,デバイスの情報を患者の自宅から医師・看護師に送信するシステムで,より早く積極的に患者に働きかけ,きめ細やかな医療を行うことが可能となる。

三橋氏は「ICDやCRT-Dを植込んだ患者さんが,より快適な生活を送るためには,医療技術や機器の進歩だけでなく,社会の理解や認知も重要である」と理解を求めた。

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